第26章 翡翠の誘惑
「そうなんですか…」
マヤはそう言ったきり黙っていた。
モブリットの告白を聞いて、どきどきしていた。異性として意識していなかった相手の意外な一面を知って、素顔を知って、急速に恋心を抱いてしまうのは自分のことのように理解できた。
……でも… だからといって、なんて言えばいいのかしら。
これがペトラだったら、オルオだったら。
わかるよ! とエールを送るのだけれども。
相手はモブリットさん。
親しくさせてもらっているとはいえ、大先輩だ。
マヤは困って、モブリットの方を見上げた。
……あっ!
思わず声が出そうになる。
視線の先に立っているモブリットは、少し頬を赤らめていた。そしてその瞳は思いきって心の内を話した充足感に満ちていた。
……モブリットさんは恥ずかしいだろうに、勇気を出して打ち明けてくれたんだわ。
そしてそのことに満足している、話して良かったという表情をしているわ。
私も聞けて良かった。モブリットさんの恋心を一緒に感じられて嬉しかった。
もともと大好きだったモブリットさんのことを、これまでより近くに感じて、もっともっと大好きになったわ。
このまま黙っていたら、伝わらない。
モブリットさんが話してくれたように、私も思っていること、感じていることを口に出すんだ。
「モブリットさん、話してくださってありがとうございます。私…、うまく言えないけど…。モブリットさんのことを今、抱きしめたい気持ちです!」
「え?」
思いがけないマヤの発言に、モブリットは訊き返す。
「あっ、いや… ごめんなさい。変な意味じゃなくて、モブリットさんの気持ちがすごくよくわかるから。そんな風に、ふとしたきっかけで心に好きな人が住みついちゃうことって私もよくわかるから…!」