第9章 バースディ
「指輪、ピッタリでよかった。」
日々人がわたしの左手をとって言う。
「そういえば、よくサイズわかったね。」
日々人に指輪のサイズを聞かれたことなんてない。
どうしてわかったんだろう。
「サイズ合わなかったら直してもらえるって言うから、サプライズにしたくて、ゆめが寝てる間に計ったんだ。」
指で輪っかを作りながら日々人が言う。
「それでピッタリってすごい!」
「うん。俺もあんまりピッタリでビックリした。」
指輪が、外からの光を反射してきらめく。
「…ありがとう。きれい。」
「俺も、プロポーズ受けてくれてありがとう。」
日々人が、微笑んで、触れていた左手をぎゅっと絡める。
「本当は、ゆめのベルギー行きが決まる前から考えてたんだ。
ゆめはまだ若いし、とか、宇宙飛行士は絶対安全な仕事じゃないから、とか、今のタイミングでいいのか迷ってた。
でも、ベルギー行きの話を聞いて、やっぱり行く前に言いたいと思って。
すぐに指輪買いに走ったけど、作るのに1ヶ月近くかかるって言われて、じゃあゆめの誕生日に言おうと思って。」
「もしかして、わたしが家飛び出してっちゃった次の日仕事の帰りが遅かったのって…。」
「あ、うん。買いに行ってた。
ごめんな。今考えたら、不安になってたゆめを、待たせちゃってたんだよな。」
ううんと首を振る。
「わたしが不安になってたから結婚決めてくれたの?」
「んー、安心させたいってのも少しはあったかもしれないけど、一番は、ゆめとずっと一緒にいたいって思ったからだよ。
言っただろ。ベルギーに行く前から考えてたって。
でもベルギー行きが、いいきっかけにはなったかな。
だって、言っとかなきゃゆめ、楽しすぎて、帰ってきてくれなくなるかもしれないし。」
「そんなことないよ!日々人と一緒にいたいもん!」
むきになって言うと、日々人が笑う。
コツン、と日々人がわたしのおでこにおでこをつける。
「うん。俺もずっと一緒にいたい。
だから、結婚しよう。」
吐息も感じるくらいの、唇が触れそうな距離で見つめられて、見慣れているはずの日々人に、ドキドキしてしまう。
「うん。する。
日々人と結婚する。」
ぎゅっと抱きしめあって、すぐ近くにあった唇を、お互い吸い寄せられるように重ね合わせた。