第8章 迷いの先にあるもの
ウルイープカに出勤すると、いつもは裏でコーヒーを飲んでいたりと寛いでいるディミトリーが、もうカウンターのところでパソコンを開いていた。
「おはようございます!」
「ゆめ、おはよう。昨日はちゃんと休めた?」
「はい。元気になりました!
ベルギー、一緒に行かせてくれて、ありがとうございました。
すごく、刺激を受けました!」
「うん。ゆめすっごい生き生きしてたね。
特にエマとすごく盛り上がってた。」
エマはわたしの大好きなブトンというブランドのプレスで、服の話ですごく意気投合したのだ。
「エマはカッコ良くてわたしの憧れです。」
「うん。彼女はパワフルですごいよね。」
ディミトリーが少し考えてから
「あのさ、ゆめ、今日仕事終わり空いてる?
久しぶりに飲みに行かない?」
と切り出す。
ディミトリーからの誘いは珍しい。でも、特に用事もないし二つ返事で行くことにした。
仕事が終わって、近くのビールが美味しいご飯屋さんに入る。
ディミトリーはビール、わたしはノンアルコール、あと適当につまめるものを頼む。
「アルコールやめたの?」
ディミトリーが聴く。
「最近、自分の酒癖の悪さを思い知っちゃって…。」
「確かに。ゆめはヘラヘラ笑って隙だらけだもんね。」
「やっぱり…。しかも急に寝ちゃうし、気をつけなきゃ…。」
「あはは。うん。女の子だしね。」
「ゆめ、最近、仕事どう?」
ふいにディミトリーが言う。
「すごく楽しいです!やりがいもあるし!」
「そっか。よかった。」
いつも穏やかなディミトリー。今日もそうだけど、何か変だ。
「何か、ありました?」
思い切って切り出してみる。
ディミトリーが手を胸の前で組み、わたしを見る。
「ブトンのバートからメールがきたんだ。
ゆめがベルギーに来る気はないかって。」
「え…?」
バートは確かブトンの偉い人。
予想外な言葉に次の言葉が出てこない。
「ブトンのプレス補助の子が、1人妊娠して来年から産休に入っちゃうんだって。
それでエマがゆめのことすごく気に入っていて、こっちに来ないかって言ってくれてるんだ。」
「ブトンのプレス…。」
あまりにも急で、ポカンとしているわたしにディミトリーが続ける。