第8章 迷いの先にあるもの
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湯船の中。日々人の足の間で背中を向けて座る。
もうもうと上がる湯気で視界が不鮮明だ。
見慣れたはずの裸なのに、改めて見れなくて、目の置き場所に困る。
お腹に軽く回された手に、首にキスするかしないかまで近づけられた唇に、ドキドキする。
とりあえず何か話さなくては、と話しだす。
「日々人…。ごめんね。
今日本当は外でおいしいご飯食べてたはずなのに…。」
「ゆめの可愛い寝起きが見れたしいいよ。」
少し後ろに傾けてた顔に軽くキスされる。
「でも、久しぶりに食べたカップラーメン美味しかった、ん。」
そこでまた唇を塞がれて声が途中で途切れる。
「もう黙って…。」
深いキスに何も考えられなくなって、もう後は日々人に身を任せるしかなかった。
お風呂場で1度、ベッドで2度目を終え、そのまま眠ってしまったらしく、気づけば朝だった。
カーテンの隙間から漏れる光で目が覚めたのは6時前。
となりでは同じように裸の日々人が眠っている。
日々人の手にわたしの手が握られていて、ふわりと優しい気持ちになる。
布団から出てしまっている逞しい肩に布団を掛け直すと、日々人が「ん…。」と目をあける。
「おはよう。」と言うと、「…はよ。」と少しかすれた寝起きの声で幸せそうに笑って、わたしを抱き寄せる。
2人でまどろむ、この時間が大好きだ。
「あー。久しぶりに隣にゆめがいる。」
「ふふ。そうだね。久しぶりだね。」
そのとき日々人の目覚まし時計がジリリリ…と鳴る。
「そろそろ起きなきゃね。」
わたしが言うと、日々人が「もう少しだけ…。」とわたしを抱きしめ直してキスをする。
コロンと体制を変えて、わたしに覆いかぶさるような姿勢になってもう一度キスをする。角度を変えて、何度も。
流されそうになるのをなんとか堪えて、日々人の胸を押しのけようとすると、不服そうに顔を上げる。
「日々人も今日仕事でしょ。準備しなきゃ!!」
「…ちぇ。」
唇を尖らす日々人がかわいくて思わず笑ってしまうと、日々人がまたちゅ、と口付けて耳元で「じゃあ続きは帰ってからね。」と恥ずかしい言葉をさらりと言う。
心臓がもたないからやめてほしい。