第4章 ムッタとヒビトとカイト
背中の下敷きになってしまった上着を、肩を抱いて起こさないようにそーっと背中から引き抜き、掛け布団をかけてやる。
「んー…。」
コロリとゆめがこちら側に寝返りを打つ。
はだけてしまった布団をかけ直し、ベッドの端に腰掛け愛しい横顔を見つめる。
顔にかかってしまった髪を耳にかけてやると、唇から微かに吐息が漏れる。
愛しくて、その唇にそうっとキスをする。
いつものゆめの匂いにアルコールの微かな匂いが混じる。
あ、ヤバイかも…。
手が柔らかな頰から肩のなだらかなラインを辿る。
温かい脈を刻む首筋に唇を付けてみる。
「ん…。」
ゆめから漏れる微かな吐息。
自分からも熱い息が漏れてしまう。
「…くすぐったいよカイト…。」
笑みをこぼしながら、またゆめがコロリと寝返りをうつ。
一気に現実に引き戻される。
かいと…。
昔付き合っていた人の名前だろうか。
ゆめも大人だ。
付き合った人のひとりやふたりいるだろう。
チリ、と胸が痛み、電気を消して部屋を出てシャワーを浴びて、歯磨きも済ませペットボトルの水を一気飲みする。
「はー…。」
へこんでしまっている自分に自嘲気味の笑いがもれる。
35にもなって、こんな自分が嫌になる。
もう一度寝室に様子を見に行く。
すー、すー、と健やかな寝息が聞こえる。
飛び出していた小さな手をきゅっと握って、頰に口付ける。
しばらくまた寝顔を眺めていたけど、ここでは寝れないな、と寝室を後にして、リビングで仕事の書類を少し読んでから、毛布に包まってソファで横になる。
今日飲んだお酒も手伝ってすぐに眠気がきて、瞼を閉じる。
目を開けると、見慣れない真っ暗な室内。
ガバリと飛び起き、辺りを見渡す。
すると暗闇に慣れてきた目でわたしの上着と一緒に、見慣れた日々人の上着を見つける。
日々人の家かな…。
昨日の記憶を働かない頭でなんとか手繰り寄せる。
昨日は日々人とムッタさんと飲んでて…、で、楽しくて…。
その後の記憶がまったくない…。
さー、と音を立てて血の気が引く。
何か変なことをしてなければいいけど…。
喉がすごく乾いていて、寝室を出ると、リビングとキッチンに出る。
ソファで寝ている日々人を見つけてホッとする。
お水をもらってから日々人の寝ているソファの横にぺたりと座る。