第2章 公園日和
「寒くなってきたし、そろそろ行こっか。」
「そうですね、私も買い物行っちゃわなきゃ。」
立ち上がって自転車を置いたところまで歩き出す。
風がふいて茶色い枯葉がカサカサと音を立てて舞い上がる。
「はぁー、こんなに日本語喋ったの、久しぶりだなぁ。」
「そういえば俺もそうかも。」
なんとなく、夕日のせいか言葉少なに来た道を歩く。
この時がずっと続けばいいのに。
でも、すぐに自転車を置いたところに着いてしまう。
「今日はありがとうございました。
いっぱい話せて楽しかったです!」
「うん。俺も。」
日々人さんがにこっと笑う。
もっと一緒にいたいな。
寂しい気持ちが胸を占める。
「あの広場の方に来たってことはもしかしてスーパーってモップス?」
日々人さんがふいに聞く。
「あっそうです。
あそこの品揃えが好きで。」
「あそこ俺ん家の近く。
今までもすれ違ったりしてるかもね。」
「え?こんな近くに住んでたんだ!
ですね。わたししょっ中行ってるし。」
「じゃあスーパーまで一緒に行こっか。」
「えっ?いいんですか?」
「うん。どうせ帰り道だし。
俺自転車押すよ。」
そう言って自転車の鍵を受け取り自転車を押してくれる。
「ありがとうございます。」
日が傾いて長くなった影を見つめる。
ふわと軽く降ろした手の小指同士が触れる。
ごめんなさい、と手をどけようとすると、日々人さんの温かい手がぎゅっと私の手を握る。
びっくりして日々人さんの方を見上げると、前を見た日々人さんの耳が赤い。
「嫌なら振りほどいて…。」
小さい掠れたような声で呟くように日々人さんが言う。
「…嫌なわけないです…。」
ピクリと日々人さんが一瞬固まり、それからゆっくりこっちを向く。
きっと夕日のせいじゃなく、顔が赤い。
きっと私も同じように真っ赤だろう。
「さんじゃなくて、日々人がいい、かな…。」
「じゃあ、わたしもゆめがいいです。」
「あと、敬語はナシでお願いします。」
なぜか丁寧な口調の日々人さんが面白くてクスリと笑う。
「…日々人…。」
「ん、何?ゆめ。」
「「………。」」
呼びなれない名前はなんだかくすぐったくて、顔を見合わせて笑う。
日々人の顔が降りてきて唇が私の唇に軽く触れる。
手とは違い外気に冷やされて、冷たくて少しカサついた唇。