第1章 春、桜のない空
「・・・」
家に帰ってから、せーくんはちょっと躊躇うようにあたしに声をかけた
「マネージャーするのは、嫌か?」
「ん?」
何をいまさら
「結構楽しいよ、先輩もいい人だし」
「そう、なら良いんだ」
「どうして急にそんなこと?」
「時々やけに暗い表情してるから、かな」
「・・・してないよ」
「いや、僕の目はごまかせない」
暗い顔してたならそれはせーくんのことを考えてたからなんだけど
なんていえるはずもない
だから、かわりに
「せーくんは、大丈夫なの?」
「・・・何が」
「部長、引き受けて」
「馬鹿にしてるのか?」
「そうじゃなくて・・・」
心配してるんだよ、どうして伝わらないかな
だから、怖いんだ
いつだって、平然と無茶をしてて、それを人には絶対見せなくて
勝手に一人で、潰れて
「せーくんは、自分でも気がつかないうちに無茶するから、心配」
「・・・」
せーくんは目を見開いていた
驚いてるみたいだ
「僕のことわかったような口を聞くんだな」
その声は、別に怒っているわけじゃなかった
むしろ淡々と唇からこぼれたような言葉だった
「どれだけ一緒にいると思ってるの?」
「10年以上、だな」
「ある程度は、わかってるよ」
そういうと、せーくんはちょっとだけ笑った
久しぶりに見た、せーくんの笑顔
「心配なら、支えてくれ」
「・・・うん」
そうだ、あたしが支えるんだ
大嫌いで大好きなこの幼馴染を、この手で
だから
「あたし、マネージャーするから」
これはせーくんに言ったんじゃなくて、自分に向けて
覚悟する
これでこの3年間また彼に振り回される日々なんだろうけど、それでもいいや
せーくんは何も言わずにただ笑った
怖がってるだけじゃダメなんだ
怖いなら、支えないと。
もっと強く。この手で力になれるように。