第2章 名前
「誰かに用事?」
今日のお弁当は、緊張であまり味がしなかった。
花ちゃんに「名前知りたいなら早く行きなよ」と急かされ、まだ二年生の教室に行くのにも抵抗があるのにとかなんとか抗議してみても、早く行かないとどんどん後回しになるよ。と言いくるめられ、例の美人さんの所へ昼休みに行くことになってしまったのだ。
そして今に至る。
いかにもクラスの皆と仲がいいですという雰囲気の男の先輩が、廊下の突き当たりでどうしようかと悩んでいた私に声をかけてくれた。
「あの、二年一組の…」
美人さん、と続けようかとしたけどこの人は男だし美人とかそういうのとか関係なく見ているだろうと思い、また黙ってしまった。
「んー…一組あんまり行かないからな…すっげえ綺麗な顔の奴なら分かるんだけど」
がば、と顔をあげるともしかしてその人?と聞き返された。
多分そうです、という曖昧な私の返事を嫌な顔一つせず受け取り、呼んでくるね。と言ってくれた。
優しすぎる…私だったら諦めて花ちゃんに助けを求めてしまうだろうに。
「…あ。私の事描いてた子」
探していた美人さんは昨日と変わらず綺麗だったけど、癖のある口調がこの人がどんな人なのかを私の中で確立させてしまった。
名前は実渕玲央さんというらしい。
「レオ姉の名前も知らない子から、この子はレオ姉を探してるんだって気づけた俺を褒めてほしい!」
「本当にっ、ありがとうございます…!」
「今日の分の考える力、使い果たしちゃったんじゃないの?」
少々辛辣な言葉を並べる美人さん。
…じゃなくて、実渕さん。
会話を聞いていると、この二人の空気感が安定しているのが分かってなんだかそんな関係が無性に羨ましくなった。
「レオ姉って何で俺にはそういう事言うのかね!ごめんねかほちゃん。この人怖くない?」
「い、いえ…」
私の短い返事が気にくわなかったのか、実渕さんが私をじとりと見ているのを感じていながら、私は敢えてその方向を見ないようにした。
繕っていない真顔も綺麗だけど何を考えているのかも私には分からなくて、目を会わせたら私が考えていることを見透かされそうで、それが怖かった。