第3章 洛山高校男子バスケ部
彼に案内されたのはコート全体が見渡せる体育館の両脇にある廊下のような場所。
丁度、バスケットゴールを動かすチェーンがかけてある柱の近くだ。
「おーいレオ姉!」
ここがいいわと言われてすぐ実渕さんを呼ぶ声が聞こえ、コートを見下ろして見るとそこには見たことのある金髪の男の人がいた。
あれは…実渕さんを私に会われてくれた恩人!
名前は葉山さんだったと思う。
「んもう。煩いわね小太郎は…はいはい!今行く!
じゃあねかほちゃん、花ちゃん」
小さく手を振り私達の元を去った実渕さん。
可愛らしく微笑んだ彼は、いつもの色っぽい感じとは違いなんだか普通の女の子みたいで、無意識にも「可愛い」と呟いていた。
「…確かにかほが褒めるだけの事はあるね。あのモデル…じゃなくて実渕さん、?」
明らかに私のモデルとしか見てないでしょ。という野暮なツッコミはもうせず黙って頷き、鞄の中を漁ってカメラを取り出そうとしたとき、ふと忘れ物に気づいた。
「…実渕さんにこれ渡すの忘れた」
「…うわ、本当に作ったんだね。あんた」
家にあったタッパに詰められたレモンたち。
見よう見まねで作ったせいか失敗をしすぎて、今日持ってきた分を味見をした時にはもう味覚が麻痺していて、よくわからないまま持ってきてしまった。
実渕さんによくわからないものを食べさせてお腹を壊しても大変だし、結果的に渡さない方が良かったのかも。
うんうんそうだよ、と自分を正当化してなんとかやりきれない気持ちを抑えていると、突如体育館に響いたブザーに肩が揺れた。
コートから聞こえる「お願いします」という勇ましい声と、いつの間にか集まっていた観客の捲し立てるような声。
練習試合にも関わらず本番にも劣らない盛り上がりだ、と圧倒されながら夢中でカメラを構えた。
私の視線の先には、なにかを期待するように相手チームを見つめながら微笑んでいる実渕さんただ一人。