第3章 洛山高校男子バスケ部
日曜日の早朝。
私達が洛山の体育館に着いた時はまだ見に来ている人は少なく、選手達も個人でシュートの練習をしたりと、体を暖めている様子。
「あ。かほちゃん、オハヨ」
「きゃ、!…お、おはようございます!」
後ろから私に声をかけたのは、紛れもなく実渕さん。
どきどきと動く心臓を落ち着かせながら彼の姿をじろりと見回すと、ユニフォームの上にトレーナーを着て体を冷やさないようにしているようだった。
服の上からでも分かる腕の筋肉が、中性的な顔立ちとのギャップになってますます魅力的に見える。
きっとそれを脱いで直に見る貴方の肉体美は彫刻みたいに綺麗。
撮りたい。ひたすらに目に焼き付けたい。貴方を描きたい…
「ふふ、言ったとおりちゃんと早めに来てくれたのね。こちらが、かほちゃんのお友達?」
見とれる私を見かねたのか、実渕さんが喋りはじめてすぐにずっと黙っていた花ちゃんに腕をつねられ、呆れたように私にため息をついてすぐ花ちゃんは簡単には自己紹介をして、無愛想によろしくお願いします。とだけ言った。
いつも私をからかうときとは全然違う冷たい口調。
「花ちゃんね。可愛い名前だわ」
「…どうも」
_やっぱり。
この人は誰にでも可愛いって言うんだ。
悪気はなく純粋に言っているだけなのに、私は何故かそれが不満で、思わず口をつぐんだ。
「じゃあ行きましょうか。人が少ないうちにね」
「はい。…ほら行くよかほ」
「…は、はーい!」
確信的な恋心があるわけでもないのに、私だけに「可愛い」と言ってほしいなんて思うのは、あまりにも卑劣で身勝手だ。
花ちゃんごめんね。私、少しだけ貴女に嫉妬しました。
私は電波越しでしか言われていないのに花ちゃんは直接言われた。彼の笑顔付きで。
嫉妬深くて重いなんて、本当にどうしようもない女だ、私。