第1章 黄玉(桃城)
瓶はわずかにアリスを逸れ、アリスの真横の壁にぶつかった。
がしゃんと音を立て割れた瓶が、破片と酒をまき散らし、アリスに襲いかかる。
酒で勢いを殺された破片は、幸いアリスに刺さることこそなかったが、いくつかの破片はアリスの肌をかすめ傷つけていった。
「あ……アリスっ!」
倒れ伏したアリスの姿にようやく我に返った俺は、急いで駆け寄ってアリスを抱き起こした。
たっぷりしたドレスの布の隙間に入り込んだガラス片がばらばらと音を立てて落ちる。
「アリス!おい、大丈夫か!?アリス!」
軽く揺すぶっても、アリスは目を開けない。
血は流れないものの、あちこち裂けた肌。くたりと垂れたまま動かない腕に、俺は取り返しの付かないことをしてしまったのでは?という思いがちらつく。
何とか飛び散ったガラスを片付け、服や寝床を整え直してアリスを寝かせる。……それでも、アリスは目を覚まさなかった。
「これは……ひどいな」
「申し訳ありませんでした!!」
珍しく笑みのない店主の深刻な声に、本格的にまずいことになっていると改めて感じた俺は、それ以上どうすることもできずただ頭を下げた。
「肌は……整えてもらうしかないか。
それに……お客さん、あなた少女《プランツ》に何か余計なものを飲ませてませんか?
いや、口に入っただけかな……」
「……酒瓶を投げたんだ。そこの壁に当たって、酒も破片もアリスにかかった。
そのとき口に酒が入ったのかも……」
ふう、と店主がため息をつく。
「なるほど。……どちらにせよ、店で何とかできる状態じゃありません。
“名人”に頼むしかないでしょうね。メンテナンスに1週間はかかります。……高くつきますよ」
俺が何も言えないでいる間に、店主はさっさとアリスを連れて行ってしまった。