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プランツ・ドールの森

第3章 桜草(白石)


「……んん?
 店主さん、これ、どういうことや?
 いや、それでもめっちゃ高価いけど……
 さっき見た少女《プランツ》よりこんな安いのはおかしいやろ」
 揺さぶりを止めた男の手を胸元から外し、店主は少女《プランツ》に歩み寄る。

「訳あり品、とお伝えしましたね。
 ……この少女《プランツ》は、笑わないんです」
「笑わない?」

 静かに眠るような少女《プランツ》の顔を見やって、男は店主の言葉を繰り返す。

「一般的な少女《プランツ》は、相性が合うお客様には笑いかけますが、相性が合わない場合は、目を覚ますもののまた眠ってしまいます。
 しかし、この少女《プランツ》は、今まで一度も笑ったことがないんですよ」

「……それ、単に誰とも相性が合わんかっただけやないんか?」
「それが、お客様についていったことは何度かあるんです。
 合わない方にいくら求められても頑として動かなかったので、おそらくその方々は相性がよかったものと……。
 ただ、そうやってついていった先でも結局笑うことはなく、どのお客様も気落ちされて返品されてきました」
 店主の手が、そっと純金の髪を撫でる。
「ふうん……」

「品質の点では、この少女《プランツ》であれば“天国の涙”を採れる可能性が最も高い、と、自信をもっておすすめしますが」
「なるほどなあ……」

 確かに、聞く限り難しい少女《プランツ》のようだ。
 しかし同時に、これ以上に“天国の涙”採取に向いた少女《プランツ》もないだろうことは、男の目から見ても明白だ。

 男はしばらく考え込み、やがて顔を上げた。



「よっしゃ!
 つまり、この少女《プランツ》を笑かして笑かして、笑い泣きするくらい笑わせたればええゆうことやな!?」



「はい?」

 思わず営業スマイルを忘れ、鳩が豆鉄砲を食らったような顔をする店主を余所に、男は一人盛り上がる。

「任せぇ!その辺は昔取った杵柄ってやつや!
 店主さん、あんたが目ぇ剥くくらいこの少女《プランツ》笑わせたるわ!覚悟しぃや!」

 背中に炎をしょって不敵にファイティングポーズをとる男に、店主は彼にしては珍しく、一言も返せなかった。



     *     *     *

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