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プランツ・ドールの森

第3章 桜草(白石)


 分厚いカーテンをくぐった先、薄暗い小部屋を、店主の持ち込んだランプが照らす。
 そこには、一体の少女《プランツ》が椅子にかけて目を閉じていた。



 純金よりもなお深く、なお輝く金の髪は、たっぷりと長く揺らめいて肩や顔を彩り床にまで波打っている。
 ぬけるように白い肌は、頬ばかりがばら色に色づき、ランプの光をまとってぬめるように艶を放つ。

 くちびるはどこまでも透明感のある紅、長く濃い睫毛が縁取る大きな目は、開かれていないことでかえってその存在を際立たせているようだった。

 額を飾るサークレット、首元を飾る豪奢なネックレスをはじめとした装飾品はひとそろいのパリュール。
 地金はプラチナ。
 本来金よりも価値の高いはずの白金が、この少女《プランツ》の金の髪の前では輝きを潜め、引き立て役に終始している。
 埋め込まれた宝石群は、大小入り交じったパパラチア・サファイア。
 ピンクとオレンジの入り交じった色味も美しい、最高級品だ。
 男の店で扱えるだろうか。博物館ものかもしれない。

 ドレスについては男は門外漢だが、それでも高級品であることくらいは分かる。
 透けるほどに薄くなめらかな生地を幾重にも重ね合わせたようなドレスは、胸元から裾に向かって白から曙色にゆったりと色が移り変わっている。
 装飾は袖の刺繍くらいだが、それで十分だと思えるほどの麗しいドレスは、この少女《プランツ》にあまりにもしっくりと似合っていた。



 男の背を、冷や汗と感動が通り抜けていく。
 たっぷり10秒ほど呼吸も忘れて少女《プランツ》に見入った男は、不意に店主の胸ぐらをつかんだ。

「ど・こ・が・訳あり品やねん!!
 これ……これ、どう考えても最上級品やろ!?」

 そのままがくがくと店主を揺さぶる男。
 老舗の看板を背負うに足る、確かな審美眼を発揮した男に、店主は無言で(舌を噛まないためだ)値札を差し出した。

「おう、どんな値がついとるんや、いっぺん見たるわ……へ?」
 片手で値札をひったくった男は、値札をのぞき込むや動きを止めた。
 その値札には、先ほどまで見ていた高級品――今目の前にある少女《プランツ》と比べれば二枚、三枚は落ちる――の、3分の1程度の額しか書かれていなかったのだ。

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