第3章 桜草(白石)
男の思いを余所に、店主はかすかな笑い声を漏らす。
「実験動物とは。そんな考え方をしているつもりはありませんよ。
……少女《プランツ》は、“選び”ます。自分で、自分の道、自分を愛してくれる相手を。自分が、より美しくなるために。
だとすれば、少なくとも、選ばれた方は“天国の涙”を採るだけの資格、もしくは素養があるんでしょう。“愛する才能”と言ってもいい」
店主は、男に手を差し伸べる。
「お客様にその才能があるかどうかは、少女《プランツ》たちが判断するでしょう。
お客様の道がどの未来に向かって延びているのか。
いざ、少女《プランツ》による運試しと参りませんか?」
ごくりと、つばを飲み込む音が、やけに大きく響いたような気がした。
しばし後。
男は、端的に言って疲弊していた。
「こちらのタイプですと、この程度……」
「こちらでしたら、ご予算はこのくらいで……」
店主が差し出す天文学的な数字にめまいを起こしたのだ。
「……なあ、俺正気なんかな?ありえへん数字が見えるんやけど」
「それはこちらの数字で?」
正気を保つために正気を疑うという、もはやよく分からない行動を取ろうとする男に、店主は無慈悲にも値札を再度つきつける。
「あああああ!!ほんまふざけんなや!それ人にモノ売ろうって額やないで!!」
値札をはたき落として、ついに男は絶叫した。
「と、言われましても。もともとは貴族の遊びですしねえ」
「時代は変わった!!変化が必要やと思うわ!」
「ご要望は職人にお伝えしますね」
叫ぶだけ叫んだ後の店主の一言に、あ、これ伝える言うて伝わらんやつや、と男は悟る。
無理無理無理、と呟いてしゃがみ込む男に、店主はひとつ息をついた。
「そうおっしゃるとなると、……あの少女《プランツ》ですかね」
耳に届いた一言に、男はがばと顔を上げる。
「なんや、お手頃なんがあるん?」
「お手頃、と言いますか、訳あり品……と言った方が正しいですね」
「ええで!何でもええわ!見せてくれや!」
訳あり品、それはお買い得品とほぼ同義になって男の耳に届く。
即座に飛びついた男に、店主はではこちらへ、と道を示す。