第1章 黄玉(桃城)
「あとは、週に1回程度、肥料として砂糖菓子を与えれば色つやが保てますし、ビタミン・ミネラルを豊富に含んだ合成肥料もあります。
そして、毎日きれいな服に着替えさせておけばいいんです。
もちろん自分でできますし、バス・トイレのしつけも完璧に済ませてありますから」
店主の言葉に、少女《プランツ》がすごいでしょう、と胸を張った。ような気がする。
姿勢良く膝に手を置いて座ったままなのだから、そんな大きな動きをしたわけではないのだが。
決まっている。買えるわけがない。
噂によると、昔から貴族の遊びとされていたようなものだ。
いくら割引されているとはいえ、俺みたいな普通の稼ぎしかないような男が買えるようなものじゃない。
……それでも。
少女《プランツ》の、俺を見るその瞳、姿。
いっしんに、俺を求める、……
どうしてだろう。買えるわけがないとわかっているのに。
わかっているのに、できないのだ。断りのその一言を発することさえも。
そんな俺の思いも全てお見通しと言わんばかりに、店主が笑う。
「ローンも承ってますよ?」
その一言で、俺は完全に陥落した。
「はい、結構です。ではこちら、一式おつけします、と。
あとは――」
店主が諸々の手続きを行っている間、俺は契約書にサインをしたっきり、あとは少女《プランツ》のそばにいた。
力加減が分からず、こわごわ頭をなでたり、指に触れたりする俺の手を見ては、すぐに視線を移して俺に微笑みかける少女《プランツ》がいじらしい。
「ほんとにきれいだなあ……ええと、“黄玉”?だっけか、店主さん」
呼びかけた名前は説明の最初に1回聞いたきり、おそらくあっているはずだが自信がない。
店主に確認をすると、思いがけない答えが返ってきた。
「ああ、そちらはただの号のようなものです。
よかったら、お客さんが名前をつけてあげてください」
「いいのか?」
「うちとしては推奨してますよ。名前をつけたら愛着が湧くでしょう?
なんといっても、少女《プランツ》の一番の栄養は『愛情』ですから」
「『愛情』……」
「ええ、そうです。しっかり注いであげてくださいね?」
店主が、片眉を上げて念を押す。
得体の知れない笑みの中に、一瞬だけ何かがよぎっていった。