第3章 桜草(白石)
「そのような採れ方ですから、“天国の涙”が採れたとして、手放される方はまずいらっしゃいません。
したがって、いつ入手できるかというのは申し上げることはできませんし、定期的な入手などありえないことであることはご理解ください」
「……はあ……」
(つまり、俺の目的は3割程度しか達成できない、ちゅうことか。
存在こそ確認できたものの、入手方法は不安定にもほどがある、入手ルートの構築なんぞ不可能の一言やな)
ため息と相づちの境目の声は、男の落胆をそのまま吐き出したもののようだった。
「ちなみに、今手元にあったりとかは?」
「残念ながら」
「さよかー……」
ダメ元の確認も不発。男は背もたれにだらしなくもたれて、天井を仰いだ。
その様子を見て同情したというわけではないのだろうが、店主はやや申し訳なさそうに続ける。
「私の手元に来た場合にお譲りすることは構わないのですが……」
「ああ、ええよええよ、気ぃ遣わんとって」
ひらひらと手を振る男の動きは最初と同じものだ。身振りについては、営業時も割と素に近い形であるらしい。
「あぁぁ……しかし、どないしょ。
情報収集だけのつもりが、まさかこんなばっさり希望絶たれるとは思てへんかったわぁ……」
体を起こす勢いのまま膝に顔を埋め、男はぼやき続ける。
時間とともにショックも抜けてきて、落ち込みは半ばポーズだけのものになりつつあるが、先が閉ざされたことには変わりはない。
「私としても、なかなか見る機会のないものですから。
“天国の涙”を採れるほど少女《プランツ》を慈しんでくださる方というのも、そうはいらっしゃいませんし」
「せやろなー……難しいのはようわかった」
あんな曖昧かつ面倒な条件をくぐり抜けた上で“天国の涙”を採れた人がいたとして、確かに手放したくはないだろう。
過去に類を見ないレベルの交渉難易度だといえる。珍重され、仕舞いには存在自体が危ぶまれるのも当然というものだ。
「かといって、お待ちくださいというのも」
「勘弁してや。どんだけ待てばええねん。
手に入ったときには俺退職してましたーとか、笑い話にもならん状況になりそうや」
「そうですよねえ……」