第2章 映し鏡(佐伯)
ごめんなさい、と誤り続ける息子を、娘がもういいから!と笑いながらもう一度抱きしめる。
そこに、少女《プランツ》たちが我慢の限界とばかりに飛びついてきた。5人が団子になって、もみくちゃになっている。
娘の笑い声に、息子の笑い声が重なり、店中に広がっていく。
いつの間にか泣き止んでいた妻も誰もまとめて、俺は家族をめいっぱい抱きしめた。
* * *
「ごめんください」
庭の木陰で遊ぶ子供たちと少女《プランツ》をリビングから眺めていると、だいぶ聞き慣れた声がした。
「あ、店主さん!」
「こんにちは、お嬢さん、おぼっちゃん。ミルクと菓子、それに冬のドレスをお届けにあがりましたよ」
「わぁ!」
我先に、と店主の荷物を受け取りにいく子供たちを追って、夫と私も外へ出た。
「やぁ、いらっしゃい。いつもありがとう」
「毎度ありがとうございます」
すっかり身軽になった店主に、夫が声をかけると、店主はいつも通りの様子で定型のあいさつを返してくる。
子供たちに、荷物をしまってらっしゃいと声をかけると、4人はわあっと家に駆け込んでいった。
「ずいぶん、お元気になられましたね」
「そうね。息子も、娘も、少女《プランツ》たちも」
子供たちを目で追っていた店主が、珍しく話しかけてくるのに応える。
娘の家出以来、家の雰囲気はがらりと変わった。
ずっと明るくなった――ただし、礼儀作法は目下見直しが必要な――娘に引っ張られるように、息子の体調はどんどんと快方へ向かい、先日、ついに学校に通う許可が出た。
それにつられてか、少女《プランツ》たちの雰囲気も今まで以上に華やかになった。最近では、言葉こそ喋らないものの、歓声や笑い声を上げるのだ。
夫の隣で、遊んでいる4人を見る時間は、まるでおとぎばなしの中の楽園にいるのではないかとすら思うほど、幸せを感じる。
「少女《プランツ》たちに教えられたなと、今は思うよ」
「教えられた、ですか」
「うん。愛するってどういうことか、とかね」
夫の言葉は、私の思いでもある。
少女《プランツ》が来たことで、確かに子供たちは満たされたのだろう。
私たちが愛せていなかった部分を、少女《プランツ》たちは補ってくれたのではないか――