第2章 映し鏡(佐伯)
「ちがっ……パパとママは悪くないよ!私がわがままだったの!」
「わがままなもんか。
いいかい、どれだけだって愛されたいって言っていいんだ。ひとは、誰かに愛された分だけ誰かを愛せるんだから」
「パパ……」
「ごめんな。……ごめん」
かがみ込んで、娘の顔を見ながら、もう一度伝える。
照れたような泣きたいような顔で下を向く娘は、少し、俺たちの知らない気配がした。
うつむいた娘の顔が、不意に大きく横にずれる。
「おね゛え゛ぢゃん!!!」
息子が横から飛びついてきたからだった。
「おねえぢゃん、ごめ、ごめんなさいっ。
ぼく、ぼくのせえでぇっ」
ぼろぼろ涙を流しながら、必死な声で娘に謝る息子に、娘は困惑した顔を向ける。
「え、なんであんたが謝るの?」
「だってっ、ぼくが、ぼくが病気ばっかしてるからお姉ちゃんがさみしくてっ」
「そんなん、何もあんた悪くないでしょ。あんたの体が弱いのはあんたのせいじゃないんだから。
……私が、私が……あんたのこと、勝手にうらやましがってたの。私が馬鹿だったの!」
こんなときでも、娘はやはり息子の姉らしい。それとも、しっかり自分の中で整理ができたのだろうか。
ごく自然に、自分の思いを息子に伝えるその目は、すっきりと澄んでいる。
……でも、息子は納得いっていないらしい。
「だって、そんなの、……ぼくだって、お姉ちゃんがうらやましかった!!」
息子がまくしたてるように訴える声に、娘は一転ぽかんとした。
「お姉ちゃんは何でもできて、頭もよくて、友達もたくさんいるし、お父さんもお母さんもお姉ちゃんのこといつもすごいねって。
ぼくだって、元気だったらお姉ちゃんみたくしたいのにって、……ずっと、うらやましかった」
たどたどしい息子の言葉が途切れると、娘はだらん、と顔をうつむかせる。
その肩は次第に震えだし、
「ぷ……あっはっはっは!!」
大笑いに変化した。
「ああ―――もう、私、私たち、もうほんと馬鹿みたい!!」
抱きついたままだった息子を反対に抱きしめ返した娘の目には、涙が光っている。
「私たち、お互いにお互いがうらやましかったってこと!?
映し鏡でお互い嫉妬するなんて、もう、大馬鹿!!」