第2章 映し鏡(佐伯)
布の行き先を目でたどっていくと、フリルと白い手が見えた。
「……エメラルド?」
反対側を見てみれば、エメラルドの頭が私の肩に乗っかってる。
いや、これ気付かないとか……私自分で精一杯すぎでしょ。やばいわ。
「お嬢さんを、慰めたいようですよ」
ぽつんと、宙に放り出されたような店主さんの言葉は、雨みたいにじわりと時間をかけて私に染みこむ。
「……私を?」
「ええ。
お嬢さんが、少女《プランツ》を愛した分だけ、恩返しをしたい、といったところでしょうか。
……たくさん、愛していただいたようですね」
今までにないくらい、ぎゅうぎゅうと私の首にしがみついていたエメラルドが、顔を上げる。
目を丸くしてる私に、ふわっ、と微笑んだ。
その笑顔。
ただ私だけを見て笑う、顔に、
気付いて、って言われた気がした。
ああ。
「私、馬鹿だったな……」
少女《プランツ》たちが来てからのことが、ふわふわ頭に浮かぶ。
弟と少女《プランツ》と4人で遊んで、そこにお父さんとお母さんが来て。そんなことがたくさんあった。
そんなとき、決まってヘイゼルは弟にくっついていて。
それで、
「いつも、エメラルドは、私の側にいてくれたのにね……
なんで、気付かなかったんだろ」
いつでも、エメラルドは、私の袖をつまんで、私の顔をじっと見ていてくれたんだ。
* * *
力を込めすぎてばたんと派手な音を立てた扉の向こうに、娘がいた。
妻が、娘の名前を叫んで駆け寄る。
抱きついたかと思ったら頬をひっぱたいて、もう一回抱きついて泣き出した。
止める間もない勢いの妻をゆったり追いかけて、娘の側に立つ。
「ママ、ごめんなさい……パパ……」
「懐かしい呼び方だね。
……心配したよ。無事でいてくれて、よかった」
「うん……」
娘の、髪を下ろしたままの頭をそっと撫でる。
「……どれだけぶりかな。君の頭を撫でたのって……」
こんなことも思い出せないくらい、間が空いてたんだな。
「……ごめんな。さみしかったんだよね。俺たちが、気付いてあげられなかったね」
ごめんね、ごめんね、と涙声で繰り返す妻と一緒に、心から、娘に謝った。