第2章 映し鏡(佐伯)
愛されてるのは分かってる。
でも、お父さんもお母さんも、弟にかかりきりだった。
いつだって、私のことを気遣ってくれていたけれど、弟は私よりずっと気遣われてた。
私のがんばりをほめてくれたけれど、弟は生きているだけで私よりずっとほめてもらってた。
私のいけない所を叱ってくれたけれど、弟はずっと体調管理で厳しく言われてた。
いつだって、いつだって、いつだって、
弟が、家の中心だった。
「わかってるの。だって、あの子、苦しいんだもん。
元気な私と違って、ただ生きるためだけに戦わなきゃいけなくて、私よりずっとがんばってる。
でも、私だってがんばってる、私だって、私だけ見て欲しいの」
こんなこと言うのわがまま。
誰よりそう思ってるのは私。
だって、お父さんもお母さんも弟も、誰も私のこと責めないもん。
いいお姉ちゃんだって、優しいお姉ちゃんだって、みんなが言うの。
私の心の中のこんなどろどろ、誰も、気付かない。気付けない。
私、上手に隠したでしょう?
「だから、少女《プランツ》が欲しかったの。
少女《プランツ》が来たら、きっと私だけ見てくれるって思って、でも、でも、足りなかったの」
少女《プランツ》も、結局弟が大好きで。
私は、家に帰って弟のおこぼれをもらうばっかり。
……あんなに欲しかったのに、いつの間にか。気持ちは色あせて、ぱさぱさになってしまった。
「もっと見て。見て。
そんなこと言えない。言ったら、私、いい子じゃなくなる。
いい子じゃない私なんて、どこにも居場所なんかないもん!」
最後は叫ぶように気持ちを吐き出した。
何か、首元が急に温かくなって、あったかいなあって思ったら、一気にぶわっと涙があふれた。
手やマグカップで受け止めきれなかった粒が、ぼたぼたと床を汚してく。
これ以上は、声にならなかった。
どれくらい泣いてたんだろう。
声も涙も出なくなって、店主さんに差し出されたタオルを汚すのが鼻水くらいになったので、のろのろと顔を上げる。
「たくさん泣けましたね」
何事もなかったかのような口調で、でも蒸しタオルを差し出してくれる店主さんに甘えて、顔をぬぐう。
なんか、口の近くに布があって、汚しそうで不安だったのだ。
……これ、何だろ?