第2章 映し鏡(佐伯)
……そうだったろうか。
思い出そうとしても、最近娘と少女《プランツ》を一緒に見た記憶があまりない。
俺もアリスも、家にいるときはできるだけ子供たちの様子を自分の目で見るようにしているし、最近息子はかなりの時間を少女《プランツ》と一緒に過ごしていた。
それなのに、娘と少女《プランツ》がそろっている記憶が、妙に少ない。
……それは、つまり、意図的に避けていたから、同席していなかったということになる。
あんなに、少女《プランツ》を欲しがっていた、あの子が?
沈みそうになる思考を、ドアの音が遮る。
泣きはらした目を濡らしたハンカチで抑えながら、アリスが部屋に入ってきていた。
「お母さん、大丈夫?」
「アリス……」
「ごめんね、心配かけたね。
大丈夫じゃないけど、平気」
腫れぼったい目で笑うアリスは、いつにもまして気高くて、凛とした美しさをたたえていた。
「泣いてる間、あの子のこと、ずっと考えてたの。
ねえ、二人とも、聞いてくれる?」
アリスの静かな、淡々とした言葉に、俺と息子はそろってうなずく。
「あの子の気持ち、ないがしろにしてたのかな、って思ったの。
もちろん、私もあなた……お父さんも、できるだけどちらかがさみしくなっちゃわないようにって、気をつけてたつもりだったんだけどね」
「うん」
「ぼく、さみしくなかったよ」
息子の答えに、アリスはうっすらと苦笑した。
「うん、よかった。
……ただね、きっとあの子は、それじゃ足りなかったのかなって」
「……少女《プランツ》を欲しがったこと?」
何となく、アリスの言いたいことが、わかってきた、んだと、思う。
……ああ、本当に、ダメな親だ。
* * *
「あの家に、居場所がない気がしたの」
「……ご家族みなさん、お嬢さんのことを大事にされてると思いましたが?」
店主さんの返事に、苦い笑いがこみあげる。
口の中まで苦くなるみたいで、レモネードをずずっとすすった。
温かい甘さが、心のどこかの固い結び目をほどいていく。
「そうだね。そうだよね。
でも、……だから、私、悪い子なんだよね、きっと」