第2章 映し鏡(佐伯)
こっちの痛いところをつっつかないように、探り探り声をかけてくれてるのが、すごくよくわかる。
早朝の空気って、そういうの、昼間よりずっと伝えてくれるのかもしれない。
「……家出、したの。」
だから、話してみようって、思ったのかな。
* * *
家中を探しても、娘もエメラルドも、どこにもいなかった。
開いた窓には、即席のロープ。どう見ても、ここから抜け出したんだろうな。
エメラルドまでいなくなっているのが疑問だけど……あの子に、ついていったんだろうか。
アリスはすっかり憔悴して、娘の名前を呟きながら泣いている。
息子がアリスの様子を見て不安がるので、とりあえず寝室に移ってもらった。
本当なら俺がついて、泣き止むまで慰めていたいけれど、そう言うわけにもいかない。
息子もかなり不安定だ。いつ熱を出してもおかしくない。
「お父さん……お姉ちゃん、どうしちゃったのかな」
「そうだね……」
ヘイゼルを抱きしめながら、泣き出しそうな顔で呟く息子への答えを、俺は持っていない。そのことが、たまらなく情けなくて、もどかしい。
「どこへ行ったんだろうね。エメラルドを連れて」
安心させてやるどころか、逆に息子に聞き返してしまう。
娘の気持ちもわかってやれない、息子の不安を取り除いてもやれない。……親、失格だな。
「ん……んー」
顔に出さずに落ち込んでいる俺の横で、息子がなにやら首をひねっている、
「どうしたんだい?」
「お姉ちゃん……うーん、あのね、お姉ちゃんがエメラルドを連れてったんじゃない気がする」
「……ん?」
どういうことだろう。
……ひょっとして、エメラルドは別の侵入者に盗まれたとか、そういうことだろうか。
事件的な方向に考えを巡らす俺をよそに、息子は続けた。
「きっと、エメラルドが、お姉ちゃんについてったんだと思う」
「……あの子は、エメラルドを連れて行くつもりじゃなかった、ってことかい?」
「うん。
……だってお姉ちゃん、最近、少女《プランツ》たちのこと見るの、つらそうだった」