第2章 映し鏡(佐伯)
それから闇雲に歩いて走って、人や車の気配がしたら全力で走って逃げた。
少女《プランツ》連れて夜中に出歩いてる子どもなんて、控えめに見ても補導対象だ。
灯りを避けて、でも裏路地に入らないようにってひたすら歩いてたら、いつの間にか夜は明けていた。
誰にも見つからずにここまで来れたの、正直私すごい頑張ったと思う。
座り込んで自分で自分をほめて、とにかくひたすら息をしていた。
なんとか息が整ってきて、ふと、左手があったかいことに気がついた。
膝に埋めてた顔を上げて左側を見ると、エメラルドが両手で私の手を握っていた。
その顔は、相変わらず私をじっと見ている。
……泣く寸前の弟の顔みたい、って、思った。
「……なによ」
少女《プランツ》は、何も言わない。
「なんか言いたいことあるなら、言いなさいよ……」
植物なのにどういうわけかほんのり温かい手が、左手を包み込んでいる。
じわじわと、左腕を伝って、熱が伝わってくる。胸の方へ……
「……さん、お嬢さん」
「ふぇ?」
ゆらゆら揺れて目が覚めた。
……いつの間に寝ちゃったんだろう。初野宿だわ。
「こんなところでどうしたんですか。当店のまん前で、しかもこんな時間に……
まさか、ここまで歩いていらしたとか言いませんよね?」
高くも低くもない、心地いい声が私に話しかけてきてる。
……誰だっけ……?
「少女《プランツ》も一緒とは、ずいぶん思い切ったことされましたね……というか、よくここまで来られましたね。
……起きてますか?」
半開きの視界に、にゅっとライオンみたいな頭が映り込む。
「……店主さん?」
「はい」
「……ここ、どこ?」
「当店のまん前です」
ぱちん、と風船がはじけるみたいに、一気に目が覚めた。
「いやー、驚きましたよ。掃除しようと思ったらお嬢さんと少女《プランツ》が座り込んでいるんですから」
「すみません……」
目が覚めてうろたえる私を、店主さんはお店に入れてくれて、飲み物までくれた。
甘い甘いホットレモネードの湯気が鼻先をくすぐる。
「少女《プランツ》を連れてこんな時間に、どうなさったんです?
……少女《プランツ》の様子を見る限り、緊急のメンテナンスというわけではなさそうですが」