第2章 映し鏡(佐伯)
「それは、ご夫婦の受け取り方、というものでしょうね」
「あら否定的」
店主の答えに、思わず皮肉っぽい言い方を返してしまう。
「少女《プランツ》は、愛されるだけの人形です。
愛されて、何よりも美しくなるために、愛される振る舞いをすることはあるでしょう。
……でも、少女《プランツ》のそれが本当に“愛”かどうかは、誰にも判別がつきません。もちろん、私にも」
淡々と、ただ淡々と紡がれる言葉に、ざあ、と葉擦れの音が重なる。
店主は相変わらずの笑顔で、何を考えているのか、そのかけらすら伺えない。
「ですから、少女《プランツ》に愛があると感じるのであれば、むしろそれは受け取り手に愛があるから、愛を感じるのだと思いますよ。
――ああ、長々と失礼しました。本日はこれで」
一礼し、去っていく店主の背を眺める。
……最後の一言はフォローのつもりかしら?それとも、本心?
旧式のエンジン音が家の前から去っていくのと入れ替わるように、家の中から笑い声が聞こえた。
家の中で、また遊び始めたのだろう。
「……愛、か」
呟いた夫が、にっこりと笑って私を見る。
「つまり、お互い愛されていると感じるなら、お互いに愛があるってことだね。俺たちみたいに」
「そうね」
そう、それでいいのかもしれない。
少なくとも私はこの人と家族がいとしくて、この人も私と家族を愛している。それで十分だった。
「愛してる、アリス」
「私もよ」
胸がいっぱいになるくらいの口づけをかわす。
秋の空は遠く青く、楽園の色をしていた。