第2章 映し鏡(佐伯)
「ただいまっ」
「おやおや、うちのお嬢さんは今日も元気だね」
車から玄関、リビングまでノンストップで駆け込むと、お父さんがお茶してた。
くすくす笑う(どうでもいいけど、お父さんの歳でこの表現が似合うってつくづく驚異的)お父さんに勢い込んで尋ねる。
「ね、ヘイゼルとエメラルドは?」
「上に3人でいるよ」
「……あ、そう」
……「3人で」。
その一言に、ちくりと刺された気がした。
ヘイゼルとエメラルド――少女《プランツ》の名前。弟の案が採用された――は、家に来てからはもっぱら弟と一緒に3人で過ごしている。
私には学校があるし、弟はやっぱり体調が優れなくて家にいるばかり。
少女《プランツ》たちがお父さんやお母さん、家政婦たちになつくかっていったらそんなこともなくて、私か弟がミルクをあげないと飲んでくれない。
私たちが二人とも少女《プランツ》の側を離れると、すごく不安そうな顔してるし。
そうなると当然、私が学校で家にいない時間、少女《プランツ》は弟のそばにべったり。
……わかってるんだけど、ね。
「ただいまー」
2階に上がって、弟の部屋のドアを開けると、弟がこちらを振り向いて、笑顔を見せる。
「おかえり、お姉ちゃん!」
笑顔でこちらに駆け寄る弟の顔からは、以前の線の細さが薄れてきていた。
少女《プランツ》が来てから、弟の体調はいい方へ向かっているらしい。
確かに、熱を出すことも減ったみたい。
去年なんか、一年の半分くらいは寝て過ごしてたし、私が学校から帰ってきたときに体を起こしてるのなんか、月に1~2回くらいだったはず。
そんなこいつが、今週は毎日起きてて、少女《プランツ》と遊んでる。正直、びっくりの一言だわ。
弟の後を追いかけるみたいに、少女《プランツ》たちも私の方によってきて、おかえりのハグをしてくれる。
私がただいま、って笑いかけると、笑顔を返してくれるところまでが毎日のあいさつになってる。
「今日は何してたの?あ、折り紙」
少女《プランツ》たちがいたラグの上に、華やかな柄の折り紙が散らばっている。
鳥や花、飾り箱はどれもていねいに仕上げられて、ぴんとした折り目も美しい。