第2章 映し鏡(佐伯)
「こちらとしても、そうしていただけると助かります。もちろん、サービスさせていただきますので」
悩む俺に、意外な援護射撃が飛んできた。
「サービスって……いいんですか?店主さんからそんなこと言ってしまって」
妻も発言内容に耳を疑ったらしい。思わず聞き返している。
「はい。
というのもですね、もうその少女《プランツ》たちは他に買い手がつきませんので」
「えっ」
「少女《プランツ》がお子様方を“選び”ましたから。
こうなってしまうと、もう他の方には目もくれなくなってしまうんですよ。
お客様方にお求めいただかないと、どうしようもないわけでして……」
困ったような言い方をしながらも、店主は「買っていただけますよね?」と言わんばかりの笑顔だ。……まったく、強気なものだ。
そっと妻に視線を送ると、一つ深呼吸をした妻は、きらりと光る目をこちらに向けて、少しだけうなずいた。
「うん、我が家の大臣の許可がいただけたね。
わかった。両方とも連れて帰ろう」
「ほんと?」
「ぃやったぁ!お父さんお母さん、大好きっ!……はいすみませんっ」
娘は、俺の決定に喜びを爆発させた。直後、妻の視線を浴びて姿勢を正す。
主張はしないながらも、少女《プランツ》を連れて帰りたかったのだろう息子も、顔をほころばせる。
「ただし、二人とも。しっかり世話をしなさい。
学校や体調のこともあるから、何もかも全部とは言わないけど、できることをきちんとするんだよ」
「はぁい」
「はいっ」
「うん、いい返事だ。
……じゃあ、ここからは頼りになる奥さんにバトンタッチさせてもらおうかな」
子供たちとの約束を済ませると、店主と同じくらいに底の知れない笑顔を浮かべ始めた妻に立ち位置を譲る。
「ええ、まかせて、あなた。
――さあ、店主さん。しっっっかり『サービス』していただけるように、お話し合いいたしましょ?」
「……お手柔らかに」
笑顔を頑として崩さない店主の額にわずかに光る汗を横目に、俺は子供たちと少女《プランツ》の名前決めにいそしむことにした。
小一時間ほどの後、一仕事終えた笑顔の妻とともに、車にとても入りきらないほどの「戦利品」を後日配送してもらう手続きを終え、やや存在感の削れた店主の見送りで店を後にした。
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