第2章 映し鏡(佐伯)
「わ、わかんない。私たち、ただ少女《プランツ》を見てただけ。ほんとよ!」
「この子たちに近づいたら、急に目を開けて抱きついてきたんだ」
子供たちは、必死に何もしていないと訴える。
疑いはない。嘘をつくような育て方はしていないし、実際嘘をついているようにも思えない。
「……店主、こういうことってあるのかい?」
「ええ、ありますよ。先ほどの話と繋がるのですが」
そう言うと、店主は抱いていた少女《プランツ》をそっと降ろした。
解放された途端、小走りで息子に駆け寄って腕にしがみつく少女《プランツ》につい視線が向く。
「何事にも“相性”というものがありますが、少女《プランツ》はとくに“相性”というものが現れやすいもので。
どんなに求めても応えないこともあれば、このように一目でなつかれることもあります。不思議としか言いようがないのですが……
お子様方は、ずいぶんと気に入られたようですね」
改めて、少女《プランツ》たちを眺める。
ヘイゼルの少女《プランツ》と、エメラルドの少女《プランツ》。
首から臑の半ばまでを覆い隠すたっぷりとしたワンピースに、蔦のモチーフの刺繍がされたエプロンを重ねているのは同じ。
純金の長い髪や顔の造作も、背格好もそっくり同じ。
……やはり、ぱっちりと開かれた瞳の色だけが、2体が違う少女《プランツ》であることを確かめられる部分だ。
ヘイゼルの少女《プランツ》は息子の腕にしがみつき、エメラルドの少女《プランツ》は息子と娘の袖口を握っている。ああ、それで娘も動けなかったのか。
その様子を見れば、確かに「ずいぶんと」気に入られた、という表現がしっくりくる。
「……あ、あのね、お父さん。
この子たち……二人とも、連れて帰っちゃ……ダメ?」
やがて、意を決したように、娘が口を開いた。
とはいえ、却下されると思っているのか、いつになく弱々しい声だ。
息子も妻も、目を見開いて娘を見ている。
ダメか、と聞かれたら、厳しい、と答えざるを得ない。
元々の予算は1体分だ。倍ともなれば、大幅な予算オーバーどころの話ではない。
しかも、俺の大して磨かれていない審美眼で見ても、2体とも相当高級な少女《プランツ》だ。下手をすれば1体でも予算を超えている可能性もある。
しかし、頭ごなしにダメだというのも……