第2章 映し鏡(佐伯)
「おと、お父さん、お母さん、あの、この子、この子たちが、顔をのぞき込んだらっ」
「え?え、この子たちどうしたらいいの?」
背中の手の正体は、どうも少女《プランツ》であるようだ。
金色の絹糸のような長い髪と、髪の向こうに広がるゆったりしたスカートが見えている。
よく見れば、息子に抱きついている少女《プランツ》とは別にもう1体、息子と娘の間に立っているのもわかった。
息子は抱きついてくる少女《プランツ》をどうしたものか困り顔、娘はそんな息子を助けようにも、間に立つもう1体の少女《プランツ》を押しのけるわけにもいかずこちらも困り顔。
「お父さん、助けてぇ」
どうにか体をよじって息子が伸ばした手を取ったとき、少女《プランツ》がこちらを向いた。
眉ほどで切りそろえられ、整えられていたはずの前髪は、息子の頭から抱きついていたためかくしゃりと乱れていたが、それでも光を強く反射し、まぶしいほどに輝いている。
明るい緑色の袖の向こうに、服の染めによく似た、しかしずっと深くきらめくヘイゼルの瞳が驚くほどの大きさで並んでいた。
うっすら赤を刷いたような頬、戸惑うように少し開かれながらも口角の上がったくちびるは、「生の喜び」とでも題したくなるような美しさだった。
……プロポーズしたときのアリスの顔によく似ている。
そんな少女《プランツ》が、息子の向こう、娘の前にもう1体いる。
全く同じ純金の髪、同じデザインのドレス、顔のパーツの配置も違いが見つけられない。
ただ、輝く瞳の色はエメラルドのような純粋な緑で、そこだけが違っているように俺には思えた。
二対の瞳がこちらを向く様は、まるで、降臨した双子の天使になにもかもを見透かされるようで。
――息すら止まるような、一瞬の凄絶な美。
「はい、失礼しますね」
俺も妻も、動かなくなっていたらしい。
店主がひょいと少女《プランツ》を抱き上げて息子から引き離す声で、はっと我に返った。
「おぼっちゃん、お嬢さん、驚かせて申し訳ありません。でも、心配はいりませんよ」
「二人とも、いったい何があったんだい?ずいぶん驚いていたようだけど」
店主に抱かれてじたばたともがく少女《プランツ》の髪や手が当たらないようによけながら、子供たちに問いかける。