第2章 映し鏡(佐伯)
運転手が扉――もうこれだけで美術品って言えるんじゃない?ってくらいの彫刻びっしりの扉――を押し開けるのを見計らって、私は弟の手を引いてお店に突撃した。
お母さんに後で何言われるかなんて知ったことじゃない。こっちは何日も何日も楽しみすぎて眠れなくて、眠れない間にどんな少女《プランツ》に会えるか妄想たくましくしてたんだから。これ以上我慢しろなんて生殺しだわ。
飛び込んだ店内は、想像していたよりずっと、ずうっとすてきだった。
華やかで、でも派手すぎず。全体の雰囲気は雅やかで女性的なのに、家具や一部の装飾はシックで男性的、でも全体が調和している。センスの塊みたいなインテリアだった。
「いらっしゃいませ。本日はどのようなタイプをお探しで?」
そして、そのお店の中にいたのは、このお店には似つかわしくないようで、よく見るととってもしっくりくる男性だった。
ライオンのたてがみみたいな黒い髪に、カフェのマスターみたいな服装をして、ぱっと見は髪型以外どこにでもいるような雰囲気の男の人なのに、その笑顔を見れば見るほど何考えてるんだか分からない感じ。
なんだかちぐはぐで、かみ合わない感じなのに、違和感を感じない。お店の雰囲気を先鋭的にした感じ。たぶんこの人が店主なんだわって、すとんと納得した。
「あ……ええっと……」
「すみません、子供たちが先に入ってきてしまって。いろいろと見せていただいてもよろしいかしら?」
「もちろんです、マダム。どうぞ心ゆくまで」
(弟的には)急に声をかけられてもごもごしてる間に、お母さんたちが入ってきてさっさと店主さんに断りを入れている。
「ありがとう。……さ、二人とも。ゆっくり見せてもらいなさい。分かっているとは思うけど、勝手に触ったりしてはダメよ」
「はい」
「はあい」
そして、こっちを振り向くお母さんの視線は、一瞬私に突き刺さる。この視線、「後でおしおき」かな。
まあ、私としてはわかりきってる、というよりわかっててやったので、別にいまさらなんてこともない。それより少女《プランツ》だわ!!
* * *