第2章 映し鏡(佐伯)
「ね、楽しみね。どんな子がいるのかしら」
ないしょ話なのに、すごく声がうきうきしてるお姉ちゃんにぼくは、
「……うんっ」
おんなじくらいうきうきした声でうなずいた。
ショウウインドウの中では、きらきらひらひらした服を着たお人形――観用少女《プランツ・ドール》が、気もちよさそうに夢を見ている。
* * *
お熱がある時とは違う、つやつやした真っ赤な顔の弟は、生まれてからこれまでで一番元気そうに見えた。
私がお母さんに怒られてるのを見ようものなら、今にもばったり倒れちゃいそうに真っ青になって、何ならほんとに倒れちゃうような弟だから、今の顔見てると、嬉しいとかよりなんだか不思議な気分。
お母さんやお父さんは、もっと違う感想がありそうだけど。
今日、このお店に来ることになったのは、きっかけは私のわがままだったかもしれないけど、最終的には弟のためだ。
『観用少女《プランツ・ドール》が欲しい!欲しいったら欲しいわ!』
私がいつもみたく、きゃあきゃあ騒いだの。
いつもみたく、はいはいって流されちゃいそうだったけど、学校の友達を拝み倒して、駅前のカフェの季節限定ベリーづくしのデザートプレートと引き替えに貸してもらった少女《プランツ》の写真何枚かを見せてしつこく頼み込んでるうちに、弟が少女《プランツ》に興味を持った。
こいつってば、いっつも熱出して寝込んでるから、人とのふれあいが足らないのよね。
自分でも分かってて、お客様とか余所の方にお会いしてもびくびくしてるの、ちょっとまずいって思ってるみたい。
少女《プランツ》みたいな、人間そっくりの人形で、ちょっと練習でもできないかって思ったのかしら。「ぼくも欲しいな」って言い出したのよ。
弟が何か欲しがることって(私と違って)めったにないから、お父さんもお母さんも喜んじゃって。
で、とんとん拍子で我が家は観用少女《プランツ・ドール》を迎えることになったってわけ。