第2章 映し鏡(佐伯)
車の窓から見える景色は、ぼくが住んでいる街なのにどこか外国みたいな感じがした。
車に乗るなんて、珍しく熱のない日に学校に通うときくらいだから、今日の景色が見慣れないのは当然なんだけど。
なんたって、今向かっているのは学校じゃないんだし。
出発してからいくつも交差点を曲がって、細い道に入って、しばらく進んでいる。
服や家具や食べ物や、いろんなお店が並ぶ通り……商店街?をゆっくり進むと、車はあるお店の前に止まった。
心配そうな顔のお父さんとお母さんが手を引きたそうにしているのを見なかったことにして――だって、さすがにもう恥ずかしい――、お姉ちゃんが運転手さんを突き飛ばしそうな勢いでぴょんと飛び出すのを追いかけるように車を降りた。
「――わああ……!!」
お店の扉を見上げたお姉ちゃんが、今まで聞いたことないような声を出した。「感極まって」って、こういう感じなのかな。
顔を真っ赤にして、目がうるうるして、ワンピースのスカートがしわになるくらいぎゅっと手を握りしめている。
扉を見ただけでこんな大げさな反応をしてるお姉ちゃんと隣にいるぼくを、通りかかった人がちらちら見ていく。目立ってるよ、恥ずかしいよ、お姉ちゃん。
濃い色のしっかりした木に細かくみっちりと、でもごてごてしないで上品に花や鳥、動物が彫られた両開きの扉は、このあたりの通りの雰囲気にはちょっと似合わない。
扉の周り、灰色の混じったうす青色みたいな壁は汚れが見あたらないし、扉の右側のショウウインドウもぴっかぴかだ。
落ち着いた雰囲気と、ショウウインドウの中身のこともあって、扉を開けたらどこかちがう世界に行っちゃうんじゃないかなって気もちになる。そんなお店が、目の前にある。
「すごい、すっごい、きれい!
ねえ、早く入りたいわ、入りたいっ。ねえ、いいでしょ?」
ぼくの腕をつかんで振り回して、お姉ちゃんがお父さんとお母さんにお願いオーラを送ってる。……あ、お母さん、怒ってるな。
お母さんがお姉ちゃんを「外向きの顔で」叱ってる間に、お父さんはくすくす笑いながら運転手さんに扉を開けるように指示してる。
ぼくが振り回されすぎてしびれちゃった腕をさすりながら扉の方を見ていると、お母さんの小言を聞き終わったお姉ちゃんがこっそり耳打ちをしてきた。