第2章 映し鏡(佐伯)
そちらこちらに飾られた――というよりは、むしろ静かに座っている、と表現したくなる――少女《プランツ》を思い思いに見ては、うわあ、きゃあ、と声を上げる子供たちを、私と夫ははらはらしながら見ていた。
娘は娘で何をしでかすか分からないところがあって心配だけれど、息子の体調が一番の心配の種だ。
今日は本当に調子がよさそうだけれど、こんな風に調子よく動いていて急に倒れたことは一度や二度ではきかない。心配してもしてもしたりないというのが正直なところだった。
「お二人も、少女《プランツ》をご覧になってはいかがですか?」
心配だわ、心配だわ、とそればかりになりかけていた思考が、店主の声で遮られる。
声のした方を見ると、微笑む店主が静かに控えていた。
とっさに私も微笑んで、返事を返す。
「今日は息子と娘が選びたいそうなので、二人に任せようと思っているんです」
「そうでしたか。でしたら、よろしければ、お待ちの間そちらの席へどうぞ。今お茶をお淹れします」
「ありがとう。そうさせてもらおうかな」
店主の勧めに応じてかけたソファは包み込まれるような座り心地で、心配すら軽くなりそうだった。
夫も私の向かい側で、肘掛けの滑らかさに驚いている。家に帰ったら、書斎の椅子の買い換えを検討しだしそうだ。
「失礼いたします」
かすかに焚かれているとろりとした香を飛び越えて、茶葉を発酵させないお茶特有の渋みに、さわやかさが加わった香りが届く。
お茶を口に含めば、香りをそのまま飲み口にしたような風味が通り抜け、残っていた心配をさらって押し出していく。
「……美味しい」
思わず言葉が漏れて、なんだか気恥ずかしくなって夫を見ると、夫もずいぶんさっぱりした顔をしていた。
「うん、とても美味しい。気分どころか心の中まですっきりしたよ」
「恐縮です」
少し弾んだ夫の笑顔に、店主が粛々と礼を返す。
……こんなにいい顔をしてくれるなら、少女《プランツ》だけでなくて、このお茶も持って帰れないものかしら。
「この茶葉も扱ってらっしゃる?」
「はい。お申し付けいただければお届けします。入れ方のマニュアルもおつけしますよ」