第1章 黄玉(桃城)
そして、そんなアリスを養うために俺は働く。
アリスのことを思えばどんなときでも笑顔でやる気を出して働くようになった俺は、不思議と仕事もうまく回せるようになった。
今までは、いらないことを考えすぎていたのか、それとも萎縮していたのかもしれない。
先輩や上司に恩返しをすべく、さらに俺は働く。
何をしても伸びなかった成績が伸び始めついには昇給、さらに昇進の打診すらも受けた。
「いい顔になったな」
ある日の休憩中、ふと先輩が声をかけてきた。
「そうッスか?」
「ああ。以前のお前はどうも浮き沈みが激しいというか、自己顕示欲が強いというか、安定しないところが顔に出ていたが。
最近のお前は、ずいぶんいい顔をするようになった」
「……あ、ありがとうございます!」
めったに人を褒めない先輩からの一言に、うっかり涙が出そうになる。
つんとする鼻をこすってごまかして、俺は深呼吸をした。
「俺、俺もっと頑張ります。これからもご指導お願いします」
「言ったな?」
先輩の眼鏡がぎらりと光った。
以前の俺ならうかつなことを言ったと後悔していたかもしれない。
でも、アリスが側にいる俺には、何の恐ろしいこともない。
「厳しく行くぞ。覚悟しておけ」
「はいっ!」
部屋に帰り、扉を開ける。
ぬいぐるみ遊びをしていたアリスが、扉の音にこちらを向いた。
とたんにぬいぐるみを放り出して立ち上がり、極上の微笑みを浮かべて抱きついてくるアリスを受け止める。
「ただいま、アリス」
ぎゅっと抱きしめると、おかえり、とばかりにアリスもきゅうっと抱きしめ返してきた。
アリスは喋らないが、声がなくとも十分に心は伝わるのだ。
もちろん、喋れる俺は言葉でも心を伝えるが。
「今日さ、先輩に褒められたよ。安定してきたってさ。
アリスがいてくれると、確かに安心したり安定したりする感じがするんだよな。
アリスのおかげだ。ありがとうな、アリス」
俺の心からの感謝に、アリスは、あなたが頑張ったからよ、と返してくれた気がした。