第2章 プロローグ
彩希がランニングから帰ってきたのは7時前。無意識にペースをあげていたのだろう、いつもより息切れが激しかった。
シャワーを浴びて汗を流し、普段着に着替えた。リビングに行くと朝食が用意されている。
「いただきます」
「はい、めしあがれ」
椅子に座り手を合わせ箸を進める。それを見て父親も自分の朝食に手を付けた。
「制服っぽい服、買っとくべきだったかな?他の子たちに変な目で見られない?」
「別に見られても気にしないよ。中学が私服だったんだから仕方ないし」
「…怒ってる?アメリカの学校、通えなくなったの」
箸を止める彩希。そして大げさなため息を付いて父親を見つめる。
「仕事の都合なんだからしょうがないでしょ?そりゃもっかい入試受けなきゃならないのはめんどくさいけど、筆記は免除って通知も来てたし、特にむこうに執着があるわけでもないし」
「でも日本は、母さんが、彩希が…」
「お父さん」
少しきつめの口調が、父親の言葉を遮る。
「いいの、大丈夫。だから受かるように祈ってて」
短くだが、強い思いを乗せ言い切る。
その言葉に安心したのか、強張っていた顔がほどけ「わかったよ」と頷いた。
「でもつらくなったらちゃんと言ってね?母さんに似て結構無理するとこあるから」
「それよく言うけど、そんなに似てる?お母さんと」
「似てるよ、性格も顔も母さんに似てる。でも口元と目の色は僕譲り」
誇らしげに言う父親に彩希は少し気恥ずかしさを感じながら、誤魔化すように食事を続けた。
そんな他愛ない話をしながら朝食が進み、家を出る時間となった。
「あ、そろそろ時間だよ」
「ん、じゃあ行くわ」
そう言われ時計を見れば、入試一時間前。
スポーツバッグを肩にかけ、愛用のトレッキングブーツを履いた。
「次帰ってくるのいつになる?」
「ん~1週間後かな。早くて4日、遅くて10日」
「あは、お仕事お疲れさん」
げっそりとした顔に思わず笑みがこぼれる。
「いってらっしゃい」
「いってきます」
軽いハグを交わして棚に立てかけてある写真にも挨拶を済まし、家を出る。いつも持ち歩いている棒付き飴を口に入れ、入学試験会場へと向かった。