第8章 それは熱を持つ
まともに視線が合えば、窓からの日光を浴びて彩希の瞳が更に黄金に輝く。
「人違いじゃないかな、きっと」
「あぁ…そうだな」
彼の手を離し、彩希は起き上がった。
「ありがとうね。轟君、だっけ。君の父親とは似ても似つかない"個性"だね」
父親の単語に彼の表情が険しくなる。
「…知ってんのか」
先程喋っていた時よりも声が低く、恨みと嫌悪の感情が篭っている。
「知ってるよ、というか君の名前で気付いたけど。ナンバー2ヒーロー、雄英の卒業生、だっけ?親の母校に入学するなんて、お父さんと並びたいのかい?」
「ふざけんな!」
突然荒げられた声。しかしそれに驚きも怖気づきもせずに彩希は彼を見つめる。
「ぁ…ワリィ…」
「気にしてないよ。それだけ感情的になるんなら、何かあるんだろうね、詳しくは聞かないけど。君の家庭内事情に今は興味ないし」
「…俺もお前に話す気はない」
「そうかい。でも"アレ"に因縁があるのは君だけじゃないからさ」
「?どういうことだ」
「それはまた今度、機会があれば話すよ」
はだけた衣服を直し、彩希はベッドから立ち上がる。
「君に恨みはないし、親子と言っても君は君だ。でもね」
突然、椅子に座っている轟の顎を掴み、自分の方へと無理矢理上へ向かせた。
「っ、な」
「お前は"アレ"と同じ目だ。だから胸糞悪い」
「っ!」
寒気がするほどの敵意。黄金色に輝いていた瞳には光はない。
その目は冷静ながらも憎悪の色が渦巻いている。
爆豪や轟が見せる怒りが激しく熱を持つものなら、彼女の怒りは凍てついた、刺さるような冷たさだった。
「…離せっ」
轟が手を振り払えばそれは簡単に解けた。だが彩希は相変わらず、冷めた視線で彼を見下ろす。
「…なんなんだ、お前は」
「東動彩希。分からないならパパにでも聞きなよ。ついでに伝言も。許すつもりは微塵もないってね」
そういって保健室を立ち去り、一人その場に残される轟。
「……クソッ」
他人の恨みに興味はない。それは彼も彼女も同じだ。
しかし、彩希の明確な敵意に竦んでしまったのは間違いなく、自身の父親との繋がりが引っ掛かる。
そしてやはり、彩希の背中は、彼女の顔は、あの人を彷彿させていた。