第8章 それは熱を持つ
誰かに支えられている。その感覚しか今はなかった。
顔を上げ、ぼやける視界に映るのは、先ほど彩希に声を掛けた男子生徒。
「君、は…」
「歩けるか?」
生徒は彩希の脇に腕を通し、肩を貸す。
「丁度いい、轟。保健室連れてってやれ」
「…轟?」
相澤はそういって彩希にも利用書を渡した。
「はいいらっしゃいな」
保健室へ行けば、まるで駄菓子屋の主人のようにリカバリーガールが迎え入れる。
彩希を座らせようと轟は椅子へ向かったが、リカバリーガールがそれを制止した。
「その子は寝てる方が楽だろうに。あっちへおやり」
指を差す先はベッド。彼女の誘導に従い、彩希をベッドへと座らせる。
「悪いね、手間かけて…」
「別にいい。横になっとけ」
肩を押され、されるがままに上体を倒す。冷やりとしたシーツが火照った身体を包み込むが、すぐに体温が移りぬるくなる。
少しでも身体を冷ませるように体操服のファスナーを降ろし、首元をはだけさせた。
「熱があるのか?」
「そう、だね。知恵熱みたいなもんだよ…冷やせば楽になるんだけど…」
「そうか」
そういうと彼は右手を差し出す。彩希は首を傾げながらも、発熱で回らない頭では考えがまとまらず、無意識にその手に自身の手を重ねた。
「…冷たい、君の"個性"かい?」
「あぁ」
氷を触っているような冷たさが掌から伝わってくる。しかし長く触っていても痛みを感じない程度の低温であり、とても心地よい。
彩希は轟の手を掴むと、開けた首元へと当てた。彼は一瞬困惑した表情を見せたが、首から伝わった熱さに驚く。
「熱いな、本当に」
「こうやって冷やしてくれるだけでも助かるよ、ありがとう」
「いや…」
少し困ったように彩希が笑う。その顔に、やはり彼は見覚えのある懐かしさを感じた。
「お前、俺とどこかであったことあるか?」
「…オンナノコを誘うセリフにしてはありきたりだなぁ」
「女…」
そうだ、あの人は、彼女は。奴よりもずっと小さい背中だったのに、それがとても大きく見えた。
自分に向ける屈託のない笑顔と強さに、憧れと、それとはまた別の感情が幼い自分には芽生えていた。
視線を合わせば、晴れ渡った青空のような目がいつも――。
「…金の目だ」
「ん?そうだよ」