第8章 それは熱を持つ
負傷はしたが指一本のみ。
入試時の怪我よりはもちろん軽傷であり、痛みはするが動けないほどでもない。
そして彼は今、そこに立っている。
◆それは熱を持つ◆
「やっとヒーローらしい記録出したよー!」
「指が腫れ上がっているぞ。入試の件といい…おかしな"個性"だ…」
「スマートじゃないよね」
入試で緑谷の"個性"を見ていた生徒は他に比べ、さほど驚きはしていなかった。
しかしそれ以上に、緑谷との長い縁があった爆豪はこの事実に口を閉じられていない。
"個性"の発現は本来ならば四歳まで。その四歳から今まで、彼は緑谷と遠からずも近くにいた。その間に緑谷は"個性"のひとつも発現せずに、"無個性"として今まで生きていた。
―――今までは。
「どういうことだ…」
ありえない、突如"個性"が発現したなどと、ありえるわけがない。
「ワケを言え!!デクテメェェェエ!!!」
掌を爆発させながら爆豪は緑谷に突進する。
しかしそれは瞬時に阻止され、彼の身体には相澤の布が引っ掛かり動きを封じられてしまった。
「ぐっ…ンだこの布…ッ!固ェ…ッ!!」
「炭素繊維に特殊合金の鋼線を編み込んだ『捕縛武器』だ。ったく、何度も"個性"使わすなよ…」
苛立ちが混じる声色と鋭い眼光が、生徒達に緊張感を与える。
「俺はドライアイなんだ!」
(("個性"すごいのにもったいない!!))
(…めっちゃ面白いなあの先生)
全員同じことを思っただろうに、彩希だけは一人、内心笑いを堪えるのに必死だった。
「時間がもったいない、次準備しろ」
"個性"と爆豪への拘束を解き、次の生徒が計測にかかる。
「指、大丈夫?」
「あ、うん…」
恐る恐る爆豪から離れた緑谷に、麗日が心配そうに声を掛ける。
「彼、凄い剣幕だったけど何かあるの?」
彩希が爆豪を見れば、彼はこちらを、否、緑谷を険しい顔で睨んでいた。
しかし自分を見ていた彩希と目が合い、ばつが悪そうに目を逸らす。
「あー…かっちゃんとは、ちょっとね」
「『かっちゃん』?」
「えーっと…家が近所だったから、幼馴染みたいなもので、昔の癖というか…」
「ふうん…」
興味が湧かなかったのか、彩希はそれ以上追及せずに遠くの爆轟から視線を外す。そしてそれは、緑谷の怪我をした人差し指へと向けられた。