第7章 最初の試練
担任のヒーロー名が判明したところで生徒たちがどよめく。
「見たとこ…"個性"を制御できないんだろ?また行動不能になって誰かに救けてもらうつもりだったか?」
「そっ、そんなつもりじゃ…」
相澤の周りを漂う布が緑谷を捕らえ引き寄せられる。
「どういうつもりでも、周りはそうせざるをえなくなるって話だ」
会話の声が小さくなり、彩希たちには少ししか聞こえなくなった。
(やれるのかい?緑谷君)
相澤の言っていることはもっともだ。一人を救けるために自分が木偶の坊になってしまってはヒーローの意味がない。
入試の時も結局は麗日に、彩希に助けられていた。だからこそ。
(こんなところで終わる君じゃないよねぇ)
話が終わったのか、相澤の逆立った髪も落ち着き、緑谷の拘束も解除される。
「お前の"個性"は戻した…ボール投げは2回だ。とっとと済ませな」
相澤は緑谷から離れ、彼がどう"個性"を使うのかを見つめる。
考え事を始めると独り言が多くなるのが緑谷の癖なのだろう。その場でぶつぶつと呟き始めた。
「どうするんだろうね、彼」
「さぁ…何か指導を受けていたようだが」
「ハッ、除籍宣告だろ」
玉砕覚悟の全力か、または萎縮し最下位に収まるか。ただ、どちらに転んでも相澤は見込みはないと判断を下す。
(相澤先生の言う通りだ)
緑谷がボールを振りかぶる。
(これまで通りじゃヒーローになんてなれやしない)
それは一投目よりも確実に違いが見えた。
(僕は人より何倍も頑張らないと…ダメなんだ!)
最大限の力を使い、最小限の痛みに。
(だから全力で!!今僕にできることを!!!)
全力の投球。それは。
「So cool!(さすが!)」
思わず感嘆の声が漏れた。他の生徒も驚きの声を上げている。
投げられたボールは暴風を放ちながら天高く上り、今まで平凡な記録しか出せていない彼からは、思いもよらない物だった。
緑谷の右手の人差し指は赤黒くはれ上がっているが、それ以外の外傷はない。
705.3mの記録を叩き出し、相澤の口元が緩んだ。
「先生…!」
緑谷が右手を握りこむ。指は恐らく折れているだろうに、涙を溜めながらも、歯を食いしばり彼は笑った。
「まだ…動けます!」
「…こいつ…!」
予想外の展開。しかし相澤は驚きながらも楽しそう笑った。