第7章 最初の試練
彼はここまで一般的な記録しか出せずにいる。残るは持久走、上体起こし、長座体前屈の3種目。どれも彼の超パワーを発揮できる種目ではない。
このまま"個性"を使わずに記録を出せば彼の最下位は必然。相澤の言っていることがハッタリでなければ、除籍は確実である。
「緑谷君はこのままだとマズいぞ…?」
「ったりめーだ、無個性のザコだぞ」
「無個性!?彼が入試時に何を成したか知らんのか!?」
「は?」
「あー入試の時は凄かったね、アレ」
「あ゙??話せやコラ!おい!」
自分だけが知らないことに爆豪はイラつきを一切隠そうとはせず、それを彩希は無視し神妙な面持ちの緑谷を見つめる。
「おいテメェ無視してんじゃねぇぞ男女ァ!」
「まあまあ、見ていればわかるよ。…って男女って私の事かい?ふふっ、酷いなソレ」
「うるせえクソが!」
「やめたまえ爆豪君!それに東動君は立派な女子だぞ!」
「ん~女扱いされるのもあんまり好きじゃないよ、俺」
「『俺』!?」
「やっぱり男女じゃねーか!」
「おお、それがツッコミ?ジャパニーズエンターテイナーの技だよね?ナンデヤネン!って」
「ぶっ潰すぞテメェ」
話が噛み合わないと爆豪は舌打ちをする。
「ははっ、面白い子が多いなぁ、ここ」
「君も十分愉快な方だと思うが…それより、緑谷君は」
「もう投げるよ、彼」
彩希がそう言うと、緑谷は大きく振りかぶりボールを投げる。
しかしそれは遠くへは飛ばずに、計測用のライン内に落ちてしまった。
『46m』
機械音声が無情にもその記録を発する。
「な…今確かに使おうと…」
「"個性"を消した」
青ざめた顔の緑谷に相澤がそう言い放つ。
「つくづくあの入試は…」
首に巻き付けられていた細い布がゆらりと広がる。
相澤の無造作に降ろされた髪は後ろへと逆立ち、気だるげだった目は鋭い眼光を放っていた。
「合理性に欠くよ、お前のような奴も入学出来ちまう」
「"個性"を消した…!!あのゴーグル…そうか……!」
"個性"を消す"個性"。そして布で隠れていた黄色のゴーグルを見て、緑谷が思い出す。
「抹消ヒーロー、イレイザーヘッド!!!」