第2章 僕が手品をがんばる理由
また目を閉じた。
ひとつ息を吐くと頭がクッションに沈む。
もう一回、今度は長めに息を吐くと身体がソファに沈む。
最後にふっと短く鼻から息を吐くと四肢が沈む。
そのまま俺の左腕はソファから落ち、指先が床についた。
手品を見せているときの貴方の笑顔。
それは凄く楽しそうで。
幸せそうで。
沈んだはずの身体がふわふわしてきた。
「にのー!あがったよ!」
さっきよりもいくらか上機嫌な声だった。
何でかわからないけど咄嗟に声が出なくて、寝たふりをしようと思った。
足音がだんだん近づいてくる。
「あれ。ねてるわ」
足音は耳元で止まった。
もあっとあったかくなった。
ばちん
って音と、両頬の衝撃。
後から、じんわり痛みが染み込んでいく。
「狸寝入りでしょ。わかるんだからね?」
見上げた貴方に、綺麗だって伝えたかった。