第3章 マッドψエンティストの暴走
人前で飛ぶ姿を見せるのは、幼い頃両親に見られた以来だ。自分の部屋では良く浮かんでるが、いざ人に見られるとドキドキする。
フッと力を抜くと、身体はフワリと浮かんだ。
斉木さんはどんな反応をするのだろう。実際に見たら引いてしまうだろうか。
「おー浮かんだ浮かんだ。懐かしいな〜小さい時の楠雄を思い出すよ」
「ほ、本当に驚かないんですね……」
思わず頬が引き攣る。
引かれたり拒絶されるのよりは格段に良いが、まさか懐かしがられるとは……。
今まで必死に隠してきた力にこんな反応をされると、ちょっと虚しくなる。
でも、認めてくれた。
きっと生涯誰にも見せる事のない力。疎ましくすら思っていた超能力を誇らしく思えた。
まずい、目尻が熱くなってきた。
「うぅっ……ぐずっ」
「え?泣いてるの?」
「ぎ、気にしないでくだざい……超能力を認めてもらって、すっごい嬉しくて……。痛いとかではないので、お気になさらずにぃ」
「…………」
「す、すびません。ぐずっ超能力を調べるんですよね」
「……、ちょっと、戻って来て」
「?」
なんだろう、超能力を調べるんじゃなかったのか。
涙を袖で拭いつつ、とりあえず天井付近から床へと降り立った。
斉木さんは俯いて、何かを考えているのか顎に手を添えていた。
「斉木さん、どうしました?」
「……おかしいな」
おかしいのは今の貴方です。
斉木さんの目は、何というか輝いていた。
……いや、輝いていたでは少し表現として合わない。そう、ギラギラしているのだ。野生の動物が獲物を見つけた時のような、本能的に逃げ出したくなる目をしていた。
少し息も荒い気がする。なんなんだ、研究のし過ぎで頭がイかれてしまったのか。
「君の泣き顔、すっごいそそる」
「……は?」
やはり頭がイかれてしまわれたようだ。
「楠雄以外にこんな感情が掻き乱されるなんて……ねぇちょっとキスしてみてもいい?」
「っな!な、泣き顔で興奮するような人とはお断りです」
「皮膚同士をくっ付けるだけだよ」
「言い方変えても嫌です!!」
急展開過ぎてついていけない。何このラブコメ展開?
先程までの超能力を調べる研究一筋の斉木さんはどこへ行ってしまったのか。きっと楠雄くんと同じく超能力が使った私を見て、一時的に昂ぶってるだけだろう。