第5章 キスから始まるψ難
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「で、その、私が、キ、キスして欲しくないと言ったのは、斉木さんの……って!な、んですか、えっ」
対面するように立っていた斉木さんが、突然私の事を抱き竦めた。
今までキスしたり膝に乗ったり身体的接触をしていたが、抱きしめられるのは初めてだった。
どうして突然抱きしめたのか?というか話の続きをしなくては。
そう考えるものの、心拍数が上がりすぎてまともに頭が働かない。
どんどん顔に熱が集まってくるのが分かる。
細いように見えて、しっかりと筋肉のついた腕が私を包み、洋服越しに斉木さんの心臓の音が聞こえる。
これがもし相思相愛の関係なら、私も背中に手を回して、斉木さんの体温や匂いをもっと感じる事が出来たのに。
……って!!何を考えてるんだ私!
斉木さんは私の事はただの研究対象としての興味か、反応が面白いから接触しているだけなのだ。
そう!婚約者になったのも、好きとか愛してるとかではなく、ほんの少し私に興味が湧いただけ!
私が勘違いして距離を縮めたら、きっと斉木さんは興醒めして離れていくだろう。
偽りの関係でもいい。憧れの斉木さんとあと少しだけ、飽きられるまで話をしたり、触れ合っていたい。
だから、斉木さんに愛されてるなんて勘違いはしないようにしよう。
そう決心すると、何故か胸をグッと締め付けられるような苦しさを感じた。
「止めないから」
「え?」
「どんなに君が嫌がっても、気持ちが他に向いたとしても、止めないから。絶対離してやらない。ここまで来るまで何年掛かったと思ってるの?外堀は埋めたんだ。君に逃げ道はない」
うわあ……重い、重過ぎます斉木さん……!!
ヤンデレ一歩手前というか片足突っ込んでる発言は、本当に好きな人が出来たらにして下さい。
超能力者なんて中々見つかるものじゃないし、必死になるのは分かるが、なんだか必死過ぎるような……。
もしかして私の事も少しは……っは!!
数秒前に決心したつもりなのに、また勘違いしそうになってしまった。
目をぎゅっと瞑り、暴走しそうな気持ちを抑える。
「で、ですから斉木さん。先程お話しした通り、私は逃げたりしませんよ」
「……、」
返事はない。だが、背中に回された腕の力は更に強まった。ちょ、ちょっと苦しい。