第5章 キスから始まるψ難
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ーー数日後
あれから斉木さんは、慌てふためき挙動不審になる私の反応に気を良くして、日常的にキスをするようになった。
物凄ーく優しく唇に触れるので、斉木さんは私を本気で好いてくれているんでは……と毎回期待してしまうが、きっと『面白い』からしてるんだろう。
そんな実験台のような扱いだが、斉木さんとのキスはとても心地の良いものだった。
もっとして欲しい、と言いかけた時は、流石に焦って口を塞いだ。
せっかく興味を持ってくれているのに、そんな調子に乗った事を言ったら、私への興味は失せてしまう。
「Ms.飛崎。このエンジン装置は素晴らしいね、流石Mr.斉木のフィアンセだ」
「教授、ありがとうございます」
「Mr.斉木が羨ましいよ。……もし、もしもだ。君が婚約破棄したくなったら言いたまえ。実は私の孫がな、ちょうど年も近くで」
ガチャッ
「あー、いた。ちょっとまた僕の研究室来てくれない?」
「っ、あ、はい!」
「ヒッ!!あ、あの……Mr.斉木!今のは冗談で」
研究室に入ってきた斉木さんに声を掛けかれ、私は自分が思考の波に沈んでいた事を知った。
……私は、大切な研究中にキスの事ばかり考えている浮ついた女になってしまったのか!!
教授の話も半分上の空で聞いていたから、具体的に何を言われたのか分からなかった。まぁ大方いつものお孫さん自慢だろう。
しかし、なんで教授は斉木さんに焦って弁解してるのか?
首を傾げながら、扉を開けたまま私を待っている斉木さんの元へと向かった。
「お待たせしました」
「……うん」
……ん?
いつもより、声がワントーン低いような……。
歩く速度も、いつもならさり気なく私に合わせてくれていたが、今は追いつくので精一杯だ。
これは、怒っている?
教授が何か変な事を言っていたのか?ああ、ちゃんと話を聞いていれば良かった。
……いや、もしかしたら私の所為?
私が上の空でキスの事ばかり考えて、研究の手が少し遅れてしまったから?
もしそうだとしたら、斉木さんに呆れられてしまう。嫌われて、しまう。
「ほら、着いたよ。早く入っ……なんて顔してんの?すごいよ、顔」
「……斉木さん、もう私にキ、キスしないで下さい」
「……は?」