第4章 ψ接近!二人の距離
斉木さんは鳩が豆鉄砲を食らったような顔をしている。少なくとも、怒ってはいなさそうだ。
私が空中浮遊してものんびり笑っていたのに、この何気ない一言は驚くのか。
IQ 218の考えることはよく分からない。
「……楠雄が、僕の弟が超能力者だと知ったからそう思ったんだろ?」
「え?いえ、前からそう思ってましたけど……」
「だって、僕は常人が10日掛けてする事を、1時間で出来ちゃうんだよ?常人が一年掛けて覚えた教科書の内容は、読んだだけで分かる。そんな僕が努力してるように見えるかい?」
自嘲的な笑みを浮かべて、超人っぷりを自慢している?自虐風自慢?……のようではなさそうだ。
恐らくだが、類稀なる才能を持ったが故に周囲から嫉妬じみた中傷を浴びてきたのだろう。
斉木さん程ではないと思うが、私も似たような事を言われたような記憶がある。
「斉木さんが天才なのは重々承知してますが……。他の人より理解するスピードがどんなに早くても、それを飲み込んで新たな物を創り出す事は、努力をしないと出来ない事ですからね」
まだ硝子のハートだった幼い私が中傷の言葉を聞いてしまった時、両親から言われていた言葉だ。
周りからどんなに『天才なんだから当たり前』『努力も知らないで』と言われても、両親からの言葉を思い出すと、もう不用の涙を流す事はなかった。
「フフ、僕の母親と同じこと言ってる」
少年のようにはにかんで、斉木さんは目を細めた。先程の自嘲的な笑みではなく、自然な笑みだ。……イケメンの自然の笑みは、破壊力がすごい。
顔に熱が集まるのを感じて、気づかれないように徐々に斉木さんから顔を背けようと動き出した。
「き、奇遇ですね。私も両親からの受け売りです」
「やっぱり?君の所の両親は聡明そうだもんね」
「ありがとうございます。お互い理解を示してくれる、良い両親を持ちましたね」
「そうだね。で、どこに向かって話してるの」
赤くなった顔を隠す事に成功した私は、斉木さんとは反対方向に顔を背けていた。
隠す事には成功したが、顔を背けながら話す姿は怪しい事限りない。
少しは顔の赤らみも引いただろうか。
いいえ特に意味はないです、と言いながら、顔を背けるのを止めるタイミングを見計らう。
「ほんっと分かりやすいね君って。耳まで真っ赤だよ」
「あっ、う」
