第4章 ψ接近!二人の距離
斉木さんの指が、滑るように右耳に触れた。
身体の奥がゾワリと震えるのを感じる。
思ってもみなかった声が出て、元々熱かった頬が、更に熱を増している気がする。
へ、変な声を出してしまった……。
これ以上変な声を出してしまわないように、右耳と口を手で塞いだ。
「……知ってる?隠されたり、抵抗されると余計に興奮するんだよ」
ぐっと斉木さんが身を乗り出してきて、手を回された。
すると、塞ぎきれなかった左耳を指でなぞられて、再びゾワリと湧き上がる感覚が身体を巡った。
「う、んんっ」
「あー、その声たまんない」
……まずい、また斉木さんの目がギラつき始めた。
左耳をなぞっていた斉木さんの指は、首から肩、背中へと緩やかに線を描くように下へ降りていった。
声が出てしまわないように下を向いて唇を噛み、じんわりと滲むような感覚に耐える。
ああ、ダメだ。
経験がなくとも分かる。このままいくと確実にヤバイ展開だ。
「……さ、いきさん!私休憩したので、研究に戻りますね」
「えー、あんなヤラシイ声出しといて逃げるの?僕の気持ちを弄んで」
「やっ、ヤラシイ声なんて出してません!!弄んでもいませんし!」
「まぁいいよ。もう君は僕の婚約者なんだし、じっくり時間をかけて調きょ……ん゛んっ、慣れさせてあげるよ」
「今不穏な単語言いかけましたよね!?」
「気のせいでしょ。調教するなんて言ってないよ」
「言いましたよ!今この瞬間に!」
「気のせい気のせい」
「気のせいじゃないですよ、もー……」
人を調教するなんてそんな事……この人ならやりかねない。
第一私を気に入ったのも『泣き顔がそそる』からというクレイジーなものだ。
これくらいの事でアタフタしていては身が持たない。
斉木さんの膝から立ち上がって、気持ちを落ち着かせるように深く深呼吸をした。
よし、研究モードだ。
「さぁ!斉木さん!人体飛行を成功させましょう!!」
「君、研究の事となると熱いよね~」
「熱意がなくて研究が出来ますか!」
「ふーん、」
研究モードに入って燃え上がる私を、斉木さんは頬杖をついてつまらなそうに見ていた。
さっきまで私と同じくノリノリだった癖に、なんだこの気の代わりようは。