第2章 the last rain(鉢屋三郎)
「三郎、今まで黙っていたけど…いや、口止めされてたから言えなかったけど、椿さんは三郎のこといつも気にかけていたよ。三郎は元気か、無茶なことしてないか。いつ行っても椿さんは僕の姿を通して三郎を見ていたんだよ。一度くらい会いに行ってやんなよ。」
「会わない。今さら会ったってどうしようもないだろ。」
俺はついむきになってしまった。
もういいと言ったのに雷蔵が話を止めないから。
腹を立てたのか、珍しく雷蔵が怒りを露に掴みかかってくる。
「今さらじゃない!三郎は卒業した二年前から時が止まっているだろ!?椿さんのことどうでもいいと言いながら避け続けているじゃないか!馬鹿馬鹿しい!完全に吹っ切れてないから逃げ続けているだけだろ!」
その言葉に俺もカッとなり、怒りに任せて雷蔵を突き飛ばす。
「お前に、何がわかるんだよ!」
「わかるよ!何年一緒にいると思ってるんだよ。僕は三郎のこと信じているよ、だけど信じていたって三郎が変わらなきゃ意味がないじゃないか。椿さんだって同じだ。信じているだけじゃ何も変わらないんだ!」
雷蔵の言葉は二年前、俺が椿へ浴びせた言葉だ。
まさか雷蔵にそれを言われるとは思わなかった。
「三郎忘れるなよ。椿さんは三年も前から時が止まっているんだ。でもそれだけじゃない。彼女は長い間独りで生きてきて、やっと自由を手に入れたのにまた独りになってしまったんだ。椿さんにとってそれは絶望に近いものだったと思うよ。先輩がどうして戻ってこないのかはわからない。でも、いつまでも先輩の影を追わなくたっていいだろ?椿さんも、三郎もだよ。」
俺が、先輩を追っている……?
何でこいつは、こんなに俺のことを見透かすんだ………ああそうか、雷蔵だからだ。
姿は偽れても、こいつの前では俺は鉢屋三郎になるんだ。
だが、悔しいから簡単に認めてやらない。
「黙って聞いてりゃ……調子に乗るな!」
雷蔵に殴りかかる。雷蔵は派手に吹っ飛んで壁に背中をぶつける。
「このっ!……わからずや!」
俺もこいつに殴られる。子供みたいに取っ組み合いのケンカだ。
こんな風に殴り合うなんて、雷蔵とはしたことがない。