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【忍たま】短編集 【R18】

第2章 the last rain(鉢屋三郎)


雷蔵の言いたいことはわかったつもりだし、雷蔵の気持ちも理解しようとする。
だけど俺の中の自尊心が邪魔をする。
言葉では伝えることが難しいから、体でぶつけるしかできなかったんだ。
お互いに本気だけど本気じゃない。
男ってのはそういうもんだろ?

しばらく二人で転げ回って、どちらともなく手が離れそのまま床に倒れ込む。
二人ともボロボロだった。だがお互いに気持ちをぶつけ合って、不思議と気持ちは晴れていた。


「……行ってくる。」


俺が立ち上がってそう言うと、雷蔵はふっと笑ったようだった。


「勘違いするなよ。あいつに…別れを言ってくるだけだ。」

「それでも三郎が変われるなら…いいんじゃない?ちょっと残念だけど。」

「……何だよそれ。」


笑顔を見せた雷蔵を残し、その場を後にする。
椿にはもう会わない、それだけ告げて去ればいい。
そのためだけに、今一度俺は忍術学園へ向かった。





学園へ着く頃にはすでに月が姿を現していた。
この時刻ならばもう、とっくに夕食は終わっているはず。
上級生が闇練を始める頃だ、見つからないようにしなければ。
まともに門から入るのも、小松田さんが面倒に感じ細心の注意を払って壁を飛び越える。
食堂に目をやるが、中の明かりは消えていた。ということは、自室にいるのだろうな。

先生方が使う長屋の一室、来たことはなかったが気配でわかる。
椿が中にいる。
天井裏からそっと覗いてみる。
彼女は鏡台の前で髪を解かしていた。
二年振りに目にするその姿、髪が長くなっておりまるで初めて会った頃のようだ。

不覚にも胸の高鳴りを感じた。違う、これは上手く話せるか緊張からくるものだと言い聞かせる。

そして俺は動いた。

鏡越しに自分の後ろに立つ男の姿に、椿は声も出ないくらいに驚愕する。
ガタンと音を立てて彼女は俺の方を振り返った。
しかし俺が微動だにしない様子を見ると、彼女の顔から恐怖が消えていく。


「……三郎君?」


名前を呼ばれただけ、それなのに胸に温かいものが流れ込んでくる。


「……何で、雷蔵じゃないってわかるんだよ?」

「うん、本当はわからなかったよ。だけど…そうだといいなって思ったから。」


椿は安心したように笑う。その顔は二年前と全く変わっていない。


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