第2章 the last rain(鉢屋三郎)
「久しぶりだね。びっくりしちゃったよ。元気にしてた?」
「ああ。」
「三郎君、全然来てくれなかったから。会えて嬉しいよ。」
何でまだそんなことが言えるんだよ。
俺がお前にしたこと忘れたのか?
あれはなかったことになってるのか?
「……今日は、別れを言いに来ただけだ。俺はもう…あんたには、会わない。」
沈黙。
笑顔を見せていた椿は、見るからに動揺していた。
「……どうして?」
「虚しくなるだけだとわかったから。自分の気持ちに決着を付けるために来た。だからもう…会いには来ない。」
胸が締め付けられる。けど、これでいい。これでいいんだ。
「三郎君待って、」
「じゃあそれだけだから。」
「待って!」
彼女の制止を聞かず姿を消す。
椿は見えなくなった俺の姿を探して外へ飛び出した。
息を切らして履き物も履かず、暗闇の中をひたすらに探し回っていた。
やがて彼女は地面に崩れ落ちる。
……泣いているのか?
何で泣くんだよ、何の意味があるんだよ。
後味が悪すぎて、その涙の理由を確かめたくなって、そっと彼女に近づいた。
「…三郎君、行かないで……まだ、あなたにっ……」
椿のその姿はまるで、何かを懺悔するようで涙が地面へと垂れ落ちる。
「……何で、泣くんだよ?」
俺の声に気づいた椿が顔を上げる。
酷い顔、そうさせたのは俺か。
「三郎君!ごめんなさい!」
謝られる理由がわからなかった。
「あなたを傷付けてしまった。あなたの気持ちに気付いていたのに、気付かない振りをしてあなたを拒絶してしまった。辛い思いをさせてしまった。本当にごめんなさい。あの時はわからなかった、でも今はわかるの。あなたがこんなに苦しかったんだって。わかってあげられなくて、ごめんなさい。」
俺の二年間を止めていたそれを、椿は悔いていた。
「今頃、わかったのかよ。」
「…ごめんなさい。」
「…もういいよ。」
椿に手を差し出し、彼女を立たせる。
流れ出る涙を拭って椿と目が合った。
「お前は…どうなんだ?前に進めるのか?」
椿の止められた三年を動かせるのは彼女だけだ。