第2章 the last rain(鉢屋三郎)
「もう、わからない。…三郎君の言う通りだった。信じていても何もならなかった。帰って来ない、連絡もない……だからもう、わからなくなっちゃった。」
椿は悲しそうに笑った。
俺と同じだ。
好きでいても相手に振り向いてもらえない。
期待しても信じていても、何もならない。
不毛な想い。
それでも隣にいる先輩なら、椿を大切にしてくれると思った。信じていた。
先輩の事情とか理由とか、そんなもの知らない。
こんなの裏切りだ。
椿は実の父親に捨てられた過去があるんだぞ。
信じられる者がいない中、独りで生きてきた過去があるんだぞ。
先輩だって知らないはずがない。
もう、先輩に椿は渡せない。
心も体も…椿の全てを受け入れてやれるのは、俺しかいない。
「笑うなよ。悲しい時に笑うな。俺は今すごく頭にきてるんだ。」
「三郎君?」
先輩に対する怒りが込み上げてきて、彼女の体をきつく抱き締める。
「俺だって先輩を信じていた。この人なら椿を幸せにできるって。俺にはできなかったけど、先輩なら椿と共に歩いてくれるって!だけど帰って来ない。お前が学園に来るまで苦労してきたことも知ってるくせに。お前が許しても俺は先輩のこと許せない。今帰ってきたって、先輩にお前は渡さない。」
「三郎君…」
椿が俺の装束を掴む。
もう俺の中に理性なんてものはなくて、椿に別れを告げに来たのに正反対なことをして、だけど気が収まらなかった。
椿の顔を自分に向けさせて、彼女の唇に自分のを重ねる。
以前の時のような抵抗はしてこなかった。
「嫌なら抵抗しろよ。俺のこと突き放して、最低だってボロクソに言えよ。」
椿は首を横に振る。
「最低なのは私だよ。都合がいいって言われるかもしれない。でももう、独りは嫌なの。」
俺は最低だ。
椿の言葉を自分の都合のいいように解釈している。
こんなことしかできないなんて、本当にガキだ。