第2章 the last rain(鉢屋三郎)
椿の体を抱き上げ、彼女の部屋へ向かう。
敷いてあった布団に椿を降ろすと、それに覆い被さるようにして彼女に口づける。
椿は俺を受け入れたように、何度も重ねるそれに答えた。
もうそれだけのことで頭がおかしくなりそうだ。
俺はまだこんなに、椿のことを愛していたんだ。
彼女の唇を割って口内を犯す。
舌を絡め吸い上げ、まるで獣のようだ。
一度解放してやると椿は息を乱し、涙目になりながら俺を見つめる。
色気のあるその表情に、体の奥がゾクリとする。
誰も知らない椿の紅潮した顔。
彼女の首筋に顔を埋め、そこに吸い付くと椿の体がビクッと反応する。
彼女の体に手を伸ばし、その形を確かめるようにラインをなぞる。
帯に手をかけると、椿の手がそれを制する。
「さっ、三郎君、待って。」
嫌なら抵抗しろと言っておきながら、いざやられると正直堪える。
だが続く言葉は予想していなかったものだった。
「私の体はキレイな体じゃないよ。だからその、きっとびっくりしちゃうから。」
ああ忘れていた。
彼女の体には傷がある。
見たことはないが、とても深い傷らしい。それを見られることを恐れているんだ。
何も知らない男ならそうだろうな。
だけど俺は知っている。その傷の意味を。
「それは椿が俺たちを守るために付けたものだろ?キレイとかキレイじゃないとかの問題じゃない、それも引っくるめて椿なんだ。俺は受け止めてやる。見せてみろ。」
「三郎君…」
体を起こし、彼女は俺に背を向ける。
帯を解いてその背中を戸惑いながら俺に晒した。
その光景に驚いたと同時に泣きたくなる。
これほどの傷を負いながら、椿は忍術学園を守るために戦ったんだ。
どれほどの痛みだったことだろう、思わずため息が出る。
「ごめん、やっぱり嫌だよね。」
椿は俺の様子を感じとり、傷を隠そうとする。
俺は彼女の手を取りそれを制する。
「隠すな、違うんだ嫌なんじゃない。椿が受けた痛みを思うと、言葉が見つからなくて…」
俺はそう言うとその傷痕に唇を這わし、指先でそれをなぞる。
この傷は一生消えることはない。